蒼の世界で踊ってみた

アオヤ

蒼の世界で踊ってみた

もう全てが嫌になった。

全てを終わらせよう。


私は校舎の屋上に向かう。


親友だと思っていた宇津井翠に演劇の主役と大好きだった桜井優をとられた。

翠の事を私の親友だと勝手に思い込んでいた。

優くんへの想いをあんなに相談していたのに私がバカだった。

部活は私と翠は演劇部に入っている。

翠と私はお互いに励まし合いながら学園祭に向けて稽古を続けていた。

私は学園祭の演劇の主役だったのにさっき先輩に主役を翠にする事を告げられた。

なぜ翠なの?

私の何が悪くて翠に交代なの?


まるで私ってピエロみたいだね。

きっと私って翠の引き立たせ役なんだね。

そんな事を思うと悔しくて切なくて情けなくて・・・

ただただこんな自分に腹が立つ。


もうどうでもイイヤ・・・


そんな事を想って校舎の屋上の扉を開けた。

さっきまで雷がなって土砂降りだったのに、今は大っきい雲が彼方に流され晴れ間が広がっている。

私は屋上に一歩踏み出した。

コンクリートの床には大きな水たまりが出来ていて・・・

水溜りには空が写り込み、空の蒼が広がっていた。


"まるで蒼の世界に迷い込んだみたい"


暫くその景色に見とれていたけど・・・

私が水溜りに踏み込むと大っきな波紋が広がった。

屋上のフェンスまで蒼い道が出来ている。

私がフェンスまで歩く度、波紋が増えて行く。

後ろを振り向くと足下を大っきい雲が通り過ぎて向こうに逃げていった。


「チェッ みんな私から離れて行く。」


なんだか逃げて行く雲を捕まえてみたくなった。

私は雲の上に一歩、踏み出した。

また波紋が広がる。

でも、雲は当たり前の様に逃げて行く。

私は捕まえられない雲になんだかイライラしてきた。

蒼の世界にポッカリ浮かぶ雲。

いつの間にか私は雲と鬼ごっこをしていた。

でも、暫くすると雲はパッと消えてしまった。

暫く周りを見渡していたが・・・

蒼い世界はまるで私の事を包みこんでくれているみたいに思えてきた。

そして私はちょっとだけココで踊ってみたくなった。


こう見えても私、中一までクラシックバレエをならっていたんだ。


私は姿勢を整え、爪先をたてた。

身体をしならせて手を天へ向ける。

眩しい光が私を照らしている。

爪先でジャンプして一歩を踏み出す。

波紋はさっきより綺麗に拡がって行った。

脚をコンパスの様に広げ水面を走る白鳥みたいに走ってみる。

まるで石が水面をきって跳ね回るみたいに綺麗に波紋が連なった。


・・・出来るじゃん私。

なんだかちょっとだけ嬉しくなった。


コンパスを刺すように私は水面を回転した。

まるで空の上に浮かんでるみたい。

そのうち、音楽室からピアノの音が聞こえだす。

私はリズムに合わせて踊った。


そして私の顔はいつの間にか笑顔にかわっていた。

・・・何やってるんだろう私?

でも、楽しい。

なんの為にここまでやって来たのかすっかり忘れちゃた。


その時、屋上の扉がガタッと開けられる。

そこから現れたのは翠だった。


「咲、ごめんなさい。お願い、話しを聞いて!」


翠は涙を流していた。


「何よ?私を笑いにきたの?」


「違う! 誤解をときたくて・・・」


「誤解? 私が何を誤解してるって言うの?」


「演劇の事と優くんの事よ。」


「アナタはどちらも私から奪ったよね!」


「違う、そうじゃない。咲は演劇に打ち込み過ぎで身体を壊しそうだったから・・・ 先輩が二、三日休養をとらせようとしただけだよ。休養したら主役に戻すって言ってたもの。」


「だったら、先輩は何でそのまま言ってくれなかったの?」


「それは・・・ アナタ頑固だから・・・ 先輩は話してもきかないと思ったのよ!」


「うっ・・・ 先輩、そんな風に私の事思ってたんだ。」


「優くんの事だって・・・」


「何でつきあってる事を言ってくれなかったの?」


「それはゴメンナサイ。でも、付き合っていないから!」


「付き合ってるみたいに・・・ いつも一緒に居るじゃない。」


「それは・・・ いつも茜ちゃんと居るでしょ? 茜ちゃんは優くんのお姉さんだから・・・ 確かに優くんの事は好きだけど・・・ まだ、つきあってる訳じゃない!」


「でも、好きなんだよね?」


「それは・・・ ゴメンナサイ。咲から相談されて言えなかったの。」


「わかったよ。でも、私は讓るつもりないから!」


私は翠の肩をポンと叩いて屋上から降りて行った。

途中、上履きがびしょびしょになっているのに気がついたが・・・

もう下校時間だし・・・

私は靴下を脱いで靴を履いた。

昇降口を出た所で翠に声をかけられる。


「咲、カップ麺奢るからコンビニのイートインコーナー寄ってかない?」


「OKゴチになります。」

散々動いてお腹が空いていたので、私は軽く頷いた。

コンビニまでは二人は黙って歩いた。

東の空からは白い大っきな月が上がっていて、私達を見守って居るみたいだった。

コンビニに着くとカップ麺を二人で選んだ。

翠は赤いきつねを手に取ると・・・


「カップ麺は何にするの?私は赤いきつねにするけど・・・」


「私は緑のたぬきにする。」


翠はカップ麺を2つ抱えてレジ前に立つ。

レジでお金を払い、私達はイートインコーナーに移動した。


翠はお湯を注ぐ前にマジックペンで何かを赤いきつねの蓋に書きはじめた。

赤いきつねの"赤い"を消して"みどりの"って書いてある。


「それ何?」


「ん、コレ? 食いしん坊が間違えない様にする為のオマジナイ。嘘よ、ただ名前を書いただけだよ。」


翠のニコッと微笑んだ顔がドキッとする位かわいかった。


「クソっ腹立つ! 翠に負けてたまるか!」


さっきまでの落ち込んでた自分がまるで嘘の様だった。

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蒼の世界で踊ってみた アオヤ @aoyashou

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