第81話 絶世の美女???②
私とクレイジーちゃんのやり取りを傍らで聞いていた嬢が追随した。
「ちょっと!あんたこないださ……」
クレイジーちゃんを更衣室に呼びこんで、ひと悶着して出てきた。
聞けば、彼女も指名客を寝とられたらしい。
「『そんなの客の勝手でしょう!』って言いやがった。あいつ何年この仕事やってんすかね?ただのオナホじゃん!」
聞こえよがしに言う。
クレイジーちゃんはカウンターにいる店長代理にぴったりくっつき、何やらぼそぼそ話しはじめた。
「○#★¥$△%!!!」
店長代理が癇に障ることでも言ったのか?
突如、クレイジーちゃんがヒステリックな宇宙語を叫んだ。
かと思うと、指名客に電話をかけた。
「もしもし!?今どこ!?」
店長代理の周囲をうろついている。
人依存が強いのだろう。
「すぐにきて!あ?いいから!これるでしょう!一大事なんだって!」
バソプレシン(セックスにより雄の脳内に分泌される、相手の雌に対する愛着ホルモン)全開の客が飛んできた。
嬢とのセックスを達成した指名客が、それでも店に通って金を落とす理由のひとつだろう。
店長代理が二人を奥のコーナー席に押しこむ。
クレイジーちゃんは酒をあおり、聞こえよがしに同僚批判をはじめた。
「私は悪くない!何もしてないのに悪者扱いされた!この店には味方が一人もいない!」
不惑の四十を前に、いまだ他責・他罰思考に囚われている。
それが、ことがうまく運ばない要因だというのに……。
「私の味方じゃないの!?」
客が少しでも異議を挟もうものならヒステリックに喚く。
ほかの席に迷惑なので店長代理が注意しにいく。
「なんだよクズ!こいつはクズ野郎だ!」
下品に指を差す。
愚痴りたおしているうちに延長打診の時間になった。
客と店長代理が顔を見あわせて頷く。
「帰ります」
「はい」
「ダメ!延長!」
クレイジーちゃんが食いさがった。
「今日はもう無理だって!」
客がクレイジーちゃんを気遣う。
「ダメダメ!延長!延長だってば!」
だが、店長代理は〆伝票を持っていった。
「いっしょに帰ろう」
喚くクレイジーちゃんを客がなだめる。
穏やかで受動的な人だ。
それゆえ、自己愛が異常に強いタイプにロックオンされ、利用されてしまうのだろう。
クレイジーちゃんは着がえもそこそこに客と店を出た。
バックヤードで一杯やりながら、クレイジーちゃんと親しい嬢と話した。
不眠と食欲不振に悩まされていると、本人から聞かされているそうだ。
待機中ともなれば昼職の人間関係のマズさや彼氏にフラれた不満を喚き、店長代理に注意されていた。
「働いてる場合じゃない。メンタルクリニックの受診を勧めてあげたら?○○(親しい嬢の源氏名)さんの言うことなら聞くかもよ?あれじゃ本人つらいでしょう」
「うーん。ははは……」
と彼女は曖昧に笑った。
『そうだよな。指名客と同じ受動型だ。だからそばに“置いておかれる”んだ。提案なんてできるはずない』
言って私は後悔した。
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