第52話 寡黙な女

 コロナ禍も落ちつき、久しく元同僚と会った。

 皆、引退した元熟キャバ嬢だ。

“女子会プラン”でスタート時間が決まっているため、予約した店の最寄り駅で落ちあう。

 遅刻常習犯は淘汰されているのでスムースだ。

 皆、痩せたり肥えたり老いたりしていたが、判別できないほどではない。

 留意しているとはいえ、事故も大病もせず半世紀近く生きているのは奇跡だ。

「○○ちゃん、亡くなったんだって……」

「らしいね。聞いたわ……」

 そんな会話も希ではない。

 再会には、再就職にありつけた者と再婚した者だけが顔を見せた。 

 複雑怪奇な中年女性の人生。

 連絡がつかない面子は、そっとしておく。

 今生の別れではない。

 また、いつか人生のクロスポイントで会えたら……と思う。


 昔話や近況報告が一段落し、酒が進むにつれて本音も漏れる。

 職場やパートナーや夫の愚痴だ。

 どこの職場にも“困ったちゃん”はいる。

 それは飲み屋に限ったことではない。

 雇用される側にまわったなら、雇用主が“困ったちゃん”を軌道修正や解雇するまで同僚がサポートするのは仕方ない。

 ことパートナーや夫の愚痴となると“男女脳診断”で男性脳55%と診断された私は、先を急いでしまう傾向にある。

 一般女性が会話に求めるのは“共感”だ。

 結論がほしいわけではない。

 無限に続きそうな心情の放出に

『で、何が言いたいの?要点をまとめて。結論が出たら聴くね』

と、いつもなら途中で面倒になってしまう。

 だが、そこに酒があり、相手に好意があれば、BGMのように聞くことができた。

「ちょっと!聴いてる?」

 ゴリゴリ女性脳のガーリッシュちゃんにテーブルを叩かれた。

「○○(私の現役時代の源氏名)って秘密主義だよね」

 パートナーの話をしないからだ。

「何?不倫?」

「いやいや(笑)。不満がないんだよ」

 ガーリッシュちゃんが、きょとんとしている。

「まったく?」

「まったく。って言うか、その場で解決しちゃうから」

 疑問があれば、直接本人に問う。

 それで、感覚の差異を確認できるし、譲歩しあうこともできる。

 パートナーになる人は自分にもっとも近い他人で、心理的距離は女友だちよりずっと近い。

 なので、本人と向きあわず陰で愚痴る彼女が、私には理解できなかった。

 言い分は、こうだ。

「嫌われたくない」

それは

『捨てられたくない』

という恐怖心だ。

 彼女は再婚して専業主婦になった。

 心理的にも、経済的にも、一人で生きていくのは限界なのだと。

 モラハラ夫でも、ストレスを抱えてでも、庇護されていたいのだと。

 その矛盾のループから、彼女は心身症を患っていた。


 男の前で寡黙な女を、慎ましく奥ゆかしいと評価するオッサンがいまだにいるが、そんなに好都合なわけがない(笑)。

 寡黙な女も、反論する女も、腹の中は大差ない。

 のんきにかまえて偉ぶっていると、外でボロクソ言われることになる。

 体力をつけて飛びさられる前に女性心理を学んだほうがいい。





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