第22話 比較癖

「こっちのほうが可愛いな!ガハハ!」

「あっちのほうがおっぱいデカいな!ガハハ!」

「そっちのほうがデカいけど肥えてんな!ガハハ!」

 己の容姿がままならない客ほど、嬢の容姿をあからさまに比較する。

 若者や脱サラ組には見られず、出世街道を外れた中年サラリーマンや、怪しい自営業者に見られる傾向だ。

 人事考課や昇進試験、出世競争や妻帯のプレッシャーにどっぷり浸かってきた中年サラリーマンなら、比較癖の種が育つ土壌は十分あるのだろう。

 そのうえ、昨今のコンプライアンスに対する鬱積がひどいので、飲み屋にますます皺寄せがくる。

 飲み屋は無礼講!という誤認識で仕事や家庭の憂さ晴らし!というわけだ。

 例えば、女性があかの他人の男性を前に

「こっちのほうがイケメンだな!ガハハ!」

「あっちのほうがちんちんデカそうだな!ガハハ!」

などと、どんな場面であろうと、どんな立場であろうと、腹で何を思っていようと、わざわざ口に出して比較するだろうか?

 まず、見たことがない。

 若いころより、自営業を本業にしてきた私には理解不能だ。

 キャバクラは成績(売上)が明示される競争社会だが、色営業や枕営業で棒グラフを伸ばす土俵違いの嬢からは、プレッシャーやコンプレックスは感じない。

 だが、彼らには染みついているのだ。

 己自身があからさまに比較され、なじられた記憶が。

 その一方で、自尊心を傷つけられたり、自信を失ったり、悔しんだり、恨んだりした記憶は忘れ、恐ろしいまでの悪気のなさで、それを嬢に転嫁するのだ。

『一生嫌われて軽蔑されてろ!』

という意味で、フリー客(あかの他人)への助言の範疇ではないが

「その言動!男を下げるのでもったいなくありません?」

と一石投じておいてもよかったか?

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