第33話 ヒュドラとの邂逅
この日のウインディア王国ダンジョンでは、めずらしい光景を見ることができた。
いくつものパーティが一緒に、ダンジョンを降っていく姿だ。
「あーあ、俺たちが先に気付いてりゃなぁ……」
自慢だった金髪を刈り込んだばかり青年が、悔しげな顔をしながら先を行く。
「しかもヒュドラ狩りに行ったのってレッドフォードたちだろ? あいつらは上級でもトップでやれるレベルだし、おこぼれすらなさそうだ」
「魔術師もかなりの腕前だものね」
仲間の女性魔術師が付け加える。
「でもさ、こんな人数で見学に行くってことは、それだけ大物なんじゃないの?」
中級者パーティの女性剣士がたずねた。
「大物っても手の内は割れてるし、そもそも敵としての強さは『なかなか』って位で、とにかく金になるってところが話題の中心だからな。竜胆石はうまく転がせば貴族になれるくらいの稼ぎになんだよ」
「貴族になれるくらい!?」
驚く女性剣士を前に、再びため息を吐く元金髪。
「ま、上級者の戦い方ってのを見学するって意味では、面白いかもな」
「そのレッドフォードって人たちはそんなに強いの?」
「そら魔剣使いが二人もいるんだから弱いわけがねえよ。ギルドでもトップの一つって言えるくらいのパーティだ。いつ騎士になってもおかしくねえ」
「そりゃすごいね。で、噂のヒュドラってのはどんな魔物なのさ」
「一言で表すんなら蛇竜だ。身体がデカくて首の数も多い。炎を噴くし毒も吐く。硬い鱗と魔法もやっかいだが……ま、一番の特徴は回復力だな」
「回復力?」
「傷を負ってもドンドン再生していきやがんだよ。だから早く勝負をつけにいかねえとじり貧になる」
「ふーん、そりゃ怖いね」
「つっても、これだけ情報が出てる上に魔剣使いが二人いるんだからなぁ。やっぱ負ける要素がねえよ」
◆
「ここが34層の未確認地帯か」
「まさかほら穴の中に道があるなんてね、どうりで気づかれないわけだよ」
レッドフォードを先頭に、魔剣士パーティはギルド地図未記載の道を行く。
抜けた先は、ただ広いだけの岩場だった。
巨大な空洞のようなその空間。
岩壁に走る魔石脈も程よい明るさを提供してくれていて、特別な雰囲気はない。
「お前はそいつの後ろで見てればいい。すぐに終わる」
「竜胆石は譲るから、その後の『ストーリー語り』はよろしくね」
「……はい」
魔術師の後ろで、ただ静かにうなずくトリーシャ。
母のためにダンジョンへ駆け込んだギルド嬢と、危険を顧みずその後を追った冒険者たち。
騎士へとたどり着く『物騙り』はもう、できあがっている。
「さあ、お出ましだ」
大きなくぼみから顔をのぞかせたのは、八本の頭を持つ蛇竜。通称ヒュドラ。
その体長は、長い長い尾を抜いても数十メールに至るほど。
ヒュドラは現れた四人の『獲物』を発見すると――――。
「グギャアアアアアアアア――――ッ!!」
猛烈な咆哮をあげた。
「行くぞアレックス!」
「了解!」
レッドフォードの呼びかけで、魔剣士二人が動き出す。
「来たぞ!」
ヒュドラの頭の一つが猛烈な火炎を噴き出すと、アレックスは手にした魔剣を振り上げる。
「守りの乱風」
魔剣が二人の周りに強烈な風のヴェールを生成、炎は千々となり消えた。
アレックスは早いステップを可能とするスキル【瞬動】で一気に距離を詰め、低い位置にいた首に接近すると――。
「断ち風!」
魔剣の放つ一撃が鋭い風の刃を起こし、ヒュドラの首に深い傷を残した。
しかしこれでは片手落ち。
ヒュドラの回復力の前では、半端な傷などないに等しい。
すぐに傷口の再生が始まろうとしたその瞬間――――首が飛んだ。
スキル【ダブルアタック】
近距離攻撃を一度の振りで二発叩き込むその技で、早くもを先勝をあげる。
【瞬動】と【ダブルアタック】という二つのスキルに風の魔剣を用いて戦うのが、アレックスのやり方だ。
対してレッドフォードは、そんな風の魔剣士をしり目に――。
「剛盾」
襲い掛かって来た二つの頭を同時に押しとどめてみせた。
発動したのは、敵の物理的な攻撃を阻む防御スキル。
レッドフォードは剛盾でせき止めたヒュドラの頭に、魔剣を振るう。
巻き起こる爆発に、二つの頭がまとめて消し飛んだ。
「ルイン。準備……できてんだろ?」
レッドフォードがチラリと視線を寄こすと、魔術師ルインは笑み一つで応える。
「もちろん。閃氷矢!」
即座に下がる魔剣士の二人。
掲げた魔法杖から、二十本にも及ぶ氷の矢が放たれる。
魔力の尾を引く氷矢は、着弾と同時にヒュドラの身体の一部を氷漬けにした。
凍り付いた首は、再生が遅くなる。
まさに文句なしのコンビネーション。
「一気に片を付けるぞ!」
勝負どこと踏んだレッドフォードは、ここで勝負を付けにいく。
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