第28話 孤高の剣士とギルド嬢と鎧鍛冶Ⅱ
トリーシャはハンバーグや野菜の乗ったプレートを手に、いつもと変わらない感じでルカの隣に腰を下ろす。
「いつもと違うのを食べてる! どうしたの!?」
「ああ、お勧めがあるってユーリが教えてくれたんだ」
「ユーリ?」
ルカを挟んだ先にいたユーリの存在に、さすがのトリーシャも驚きの表情をする。
「あれ、二人はいつの間に?」
「まあ装備品の修理つながりだな」
「そうなんだ……」
「ええと、話してみるとユーリってなんかいいヤツで」
「ま、待って、そういうのはやめて――」
「やだなあ、そんなの知ってるよ」
「「はい?」」
トリーシャの予想外な言葉に、ユーリまでもが声をあげた。
「ユーリさんには本当に助けられてるんだよ。ダンジョンでの成果もごまかさずに、しっかりと計算を終えた状態で報告してくれるし」
「そ、それは虚偽の報告をすればギルドに余計な手間をかけさせることになって、結果自分も待つ時間が長くなるというのを防ぐためだよ」
「地図製作の協力もしてくれるし」
「その方が合理的だからだ」
「事故に遭った冒険者を助けてくれたりもするし」
「それも単なる偶然だ」
「階層調査も魔物研究も進むから、職員としてはすごく助かってるんだよ」
「私は別に率先しているわけじゃない。言われたことをやっておいた方がギルドに何かと融通してもらえるだろうという打算的な考えで――」
「そうそう、この前なんか倒れた花に添え木をしてあげてて――」
「なんでそんなところまでしっかり見ているの!?」
いよいよユーリは顔を赤くし出す。
誰もが噂する孤高の剣士と、人気の看板娘であるギルド嬢に囲まれる鎧鍛冶という光景。
「どうなってんだ?」「あの三人はどんな関係なんだ?」という声が上がり始める。
そしてついに、興味を掻き立てられた冒険者が動き出した。
「なあ、キミどうしてこいつと一緒に?」
「別におかしくないと思うけど?」
「いや、たかが鎧鍛冶にどうしてこんなに……」
「たかが? 君は命を守るための装備品を『たかが』なんていう感覚で扱っているのか? 私は信用できる者にしか装備を預けない。そして信用は言葉と行動から生まれる。そのくらい思いつきそうなものだけど?」
冷たい視線と共に、いつものやつをぶちかますユーリ。
すぐに「やっちゃった……」という顔をしかけて、必死に取り繕う。
「ねえねえ、あたしも一つ聞いていい?」
そこにやって来たのは、一人の女剣士だ。
ワイン片手に図々しく三人の前の席にやって来ると、興味津々といった感じでユーリに問いかける。
「その鎧鍛冶くんのことは、どう思ってるの?」
「彼が鎧鍛冶をしていて、私が冒険者である以上、少し考えれば分かるだろう?」
ユーリはクールな表情を作りながら、水を口に運ぶ。
「好きってこと?」
「ゴホッゴホッ! なぜそうなる!? そ、そういう目でしか人を見られないとは、浅はかも甚だしいな全く!」
動揺し始めるユーリを、しかし女剣士は見つめたまま。
「……動揺してる」
「してない!」
「ちなみに鎧鍛冶くんの方はどう思ってるの? この子のこと」
「ああ、俺は好きだけど」
「ぶふーっ! ききき君はここまでの流れを聞いていなかったのか!?」
いよいよユーリが、耳まで真っ赤にし始めた。
「ね、ねえルカ」
すると今度はトリーシャが、視線をそわそわさせながら入り込んでくる。
「なんだ?」
「……好きって……その、どういうこと?」
「はい?」
「い、いや、別に深い意味はないんだよ? ただ、幼馴染としてちょっと気になっただけで!」
「いや、仕事道具を大事にする姿勢に好感が持てるってことだけど」
「……そ、そうだよね! そうだと思った! うんうん、私もユーリさんの姿勢はいいと思う!」
トリーシャは必要以上に「うんうん」とうなずいてみせた。
一方、女剣士はさらに踏み込んでいく。
「で、あらためて鎧鍛冶くんのことは?」
「しつこいな君は! そもそも私はルカに感謝しているし、同様に受付の人たちにも感謝しているよ!」
「……ユーリさん」
そんなユーリの言葉に、トリーシャは思わず立ち上がる。
「な、なに?」
雑だったり、適当だったり、ごまかしたり。
そんな冒険者たちの相手を続けて来たトリーシャは、感激の面持ちでユーリに向き直る。
「よく聞こえなかったから……今の言葉もう一度言ってもらっていい?」
「君もその手口を使うのか! 一体君たちはどうなっているんだ!」
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