第27話 孤高の剣士とギルド嬢と鎧鍛冶
「まーたその話かよ。たった一人でバフォメットを倒す全身鎧なんかいねえっての」
「でも確かに見たんだ! なあ?」
「本当よ。たった数分……いえ、数分もかからずにゴーレムごとバフォメットを片付けたの」
「そんなヤツがいたらとっくに話題になってんだろ」
「それが本当にいるんです」
「ああ、間違いない」
夜のギルド酒場では、四人組のパーティが同僚の冒険者と熱く語り合っていた。
「そりゃ全員まとめて幻覚でも見せられてたか、お前らが皆クスリでもやってるかのどっちかだな。ははは」
「マジなんだって!」
「そんな頭チリチリのヤツに言われても」
「髪の話はやめろ!」
元金髪の話にうんざりしながら応える同僚冒険者。すると。
「……俺、そいつ見たかもしれない」
遅れてやって来た軽装の剣士が、そうつぶやいた。
「それって割と武骨な作りの全身鎧じゃないか? デカい剣を持った」
「そうそれ!」
「前に28層で見かけたんだが……身のこなしとか魔物のさばき方がすごかった。あの感じだともっと下層に用がありそうだったが」
「で、それはどこのどいつなんだ? 驚異的な身のこなしにゴーレムを一撃で崩す魔力。ここまでは信じてもいいが、その上バフォメットの炎が効かない全身鎧ってのがなぁ」
「そんなヤツがいたら、今ごろ騎士にでもなってるよな」
同僚たちの言い草に、青年は声をひそめる。
「いや、あれは騎士かもしれない。一人であんな階層の魔物を倒せるなんて帝国の将軍か王選騎士くらいだろ」
「騎士様が何しに来てるってんだよ」
「最近帝国のこともあって物騒だろ? だから王国から国内警備の命令を受けてるとみた」
「そいつが本当なら、俺もお目にかかってみたいねぇ」
「……何の話をしてるんだ?」
にわかに盛り上がり出す全身鎧の話。
青年たちに声をかけに来たのは、ルカだった。
「倉庫くんには関係ねえよ。ほら、さっさと仕事に戻んな」
「そういうことなら、何か調子の悪い防具でもないか?」
「別にねえよ」
「念のために見ておいた方がいいと思うよ」
「いらねえって」
「そうだ! 潰してもう一度組み立てれば確実だな!」
「何のためにだよ!」
「さあ……鎧を渡してもらおうか」
「おいやめろ強引に脱がそうすんな!」
いよいよ鎧を脱がしにかかるルカに、元金髪の青年がテーブルの下に潜り込んだ。
「ダメか……」
仕方なく、端のテーブルで一人細かい作業を始める。
「……ルカ」
するとそこに、ユーリがやって来た。
「あれ、どうした? 何か仕事の依頼か?」
目を輝かせながら、ユーリの装備品に目を走らせるルカ。
「……よければ、一緒に夕食をどうかと思って」
「――――っ!?」
辺りの冒険者たちが一斉に会話を止める。
突然の静寂にユーリが振り返ると、慌てて騒がしさを取りつくろう冒険者たち。
それも無理はない。
美しく、それでいてどこか可愛げも感じさせるその容姿。
そこに人を寄せ付けない態度と、ソロ冒険者としての優秀さを併せ持つ。
そんな孤高の剣士が突然、ギルドの雑用係である鎧鍛冶を食事に誘ったのだ。
驚かない方が無理というものだろう。
見ればユーリは、両手に鶏肉料理のプレートを持っていた。
「意外かもしれないが、これがこの食堂のおすすめなんだ」
そう言いながら、隣のイスに腰を下ろす。
「こっちは……君の分」
そう言いながら、料理をテーブルに乗せた。
「べ、別に空腹でないと言うのなら――」
「いただきます」
「…………」
言い終わる前にかっさらわれて、言葉を失うユーリ。
「ええ!? 食堂のメニューにこんな美味いのがあったのかよ……っ!」
さっそくルカが驚きの声を上げる。
思い返してみれば、今日は朝昼を兼食して以降水すら口にしていない。
そのうえルカはほとんど毎日「いつものあれ」ばかりを食べるものだから、ほとんど食堂の料理を知らないのだった。
ユーリのおすすめを、かきこむ様にして食べるルカ。
その食べっぷりをチラチラのぞき見ては、安堵の息を吐くユーリ。
そんなユーリを見て、ため息を吐く冒険者たち。
「なんであんなヤツと……?」
中にはそんな、やっかみの声をあげる者まで出始める。
ギルド酒場で繰り広げられる異様な光景。
しかしこの日は、これだけでは終わらない。
「あれ、めずらしいね。ルカが食堂で夕飯食べてるなんて」
そう言いながらやって来たのは、トリーシャだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます