第24話 その正体は鎧鍛冶

 バフォメット。

 大きな山羊の顔をしたその魔物には、三本の角が生えている。

 顔の両側面で巻かれた禍々しい二本の角と、頭頂部で燃え続ける立錐の角。

 ダンジョン39階層に棲むその魔物は、誰もが恐れる力を持つ。

 その右手から放たれる、豪炎の砲弾。


「喰らわねえよ!」


 金髪の青年が振るった魔剣の起こす衝撃波が、炎弾を火の粉へと変える。

 するとバフォメットは続けざまに、猛烈な炎のしぶきを巻き起こす。


「光の盾!」


 大盾の男が展開した光の壁が、仲間を守る。

 すると盾の庇護下から、弓手が五本の矢を同時に放った。

 輝く五本の矢は、敵までの間に直線を求めない。

 対象目掛けて、光の弧を描くようにして飛んでいく。

 バフォメットは背中に生えた黒い翼を羽ばたかさせることでそれをかわし、今度は左手を上げた。

 すると足元に描かれた魔法陣から現れたのは、五匹ほどの鋼蜘蛛。


「風閃刃(ウィンドブレード)!」


 すかさず女性魔術師の放った魔法が、鋼蜘蛛たちを切り刻む。


「さすがに強敵ですが……いけますね!」

「ったりめえだ。俺は騎士になる男だぞ」


 歓喜する弓手に、金髪の青年は強気に笑みを見せる。

 しかし次の瞬間、足元から伸びた四本の鎖が大盾の男の足をつかんだ。


「身体が、動かないっ!」

「ったく、しゃあねえな!」


 金髪の青年が魔剣で鎖を切り落とすと、そのまま四人全員が跳び下がる。

 すると四人がいた場所に、荒々しい炎の柱が吹き上がった。


「あっぶねえ……」


 安堵の息を吐く青年に対し、バフォメットは間髪入れずに左手を上げる。

 すると骸と化した鋼蜘蛛たちが魔法陣に溶かされ再構築。

 鉄と岩が入り混じった大型のゴーレムになった。

 即座に弓手と魔術師が攻撃を放つが、硬質なゴーレムに深手は与えられない。


「それなら俺が……なッ!?」


 動き出そうとした金髪青年の腕を、四本の鎖がつかんでいた。

 さらにバフォメットは炎砲弾を三連射。


「光の盾!」


 どうにか大盾の男が守りに入るも――。


「……ウソだろッ!!」


 煙をかき分け現れたゴーレムに、殴り飛ばされた。

 弓手を巻き込み転がる二人。

 バフォメットはさらに炎砲弾を放つ。


「冗談じゃねえ!」


 どうにか鎖を断ち切り魔剣を振るうが、始動の遅さゆえに相殺はし切れない。


「ぐああああッ!!」


 吹き飛ばされ転がる青年。

 さらにそこへ、鋼のゴーレムが追撃を仕掛けてくる。


「ちょっとマズくない!? ここからどう戦うの!?」

「……そんなの、決まってんだろ」


 形成を一気に逆転され、慌てて駆け寄って来る魔術師。

 バフォメットに背を向けた青年は――。


「逃げるぞー!」

「「「ええッ!?」」」


 撤退を開始した。

 しかしバフォメットは、そんな冒険者たちを見逃したりはしない。

 その背中に炎砲弾を放り込む。


「隠れろ! 岩場の隙間に隠れろォォォォ!」


 大慌てで岩の隙間に飛び込む四人。


「盾だ! 光の盾で防御しろ!」


 盾を展開し、次弾からどうにか身を守る。


「ねえ! このままこんがり焼かれて死ぬなんて嫌よ!」

「ウェルダンならまだマシだな。最悪ミディアムレアで長らくその姿を無残にさらす可能性も……」

「ちょっと待て。俺の髪……燃えてるゥゥゥゥ!」


 岩にはじかれ火の粉を巻き上げる炎砲弾。

 光の盾も、炎は防げても暑さまでは防げない。

 さらにゴーレムまでもが、こちらへ向かって歩き出した。


「ひいいいい! 熱いですー!」

「ちょっと! どうするのよ!?」

「その前に俺の髪が! 俺の髪がぁぁぁぁ!!」


 自身の頭をバンバン叩いて鎮火させる金髪の青年。


「……ん?」


 不意に、目を丸くする。



「…………なんだ、あいつ」



 そこにやって来たのは、見知らぬ一体の全身鎧。

 鈍い褐色をしたその青銅鎧は、バフォメットを見つけるや否や大きな剣を構えた。


「ま、まさか一人で戦うつもりなんですかね?」

「この階層で単騎特攻なんて……無謀が過ぎるわ」


 バフォメットは右手をあげ、突然やって来た全身鎧に問答無用で三連発の炎砲弾を叩き込む。


「おい、避けろ!!」


 思わず叫ぶ大盾の男。

 しかしその叫びはむなしく、爆炎の砲弾は全て鎧の冒険者に直撃した。

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