第10話 検証【魔装鍛冶】
【――――魔装鍛冶LEVELⅤ.審眼】
【――――魔装鍛冶LEVELⅥ.魔力開放】
「……審眼に、魔力開放?」
キングオーガとの戦いは、とても熾烈だった。
それはギルドでも話題になるほどの事件。
しかし冒険者ではなく、あくまで裏方を務めるルカはその事を知らない。
今夜もいつも通り、水面に映った新たなスキルに目を向けていた。
「ええと【審眼】は素材を見る能力を発揮する。防具の装備は不要。【魔力開放】は個人の持つ魔力を放つ……どういうことだ?」
説明を呼んでもピンとこない。
そうなったら、やるべきことはたった一つ。検証だ。
「まずは【魔力開放】から試してみよう。パーツは……左のガントレットだな」
右には現状【パワーレイズ】が搭載されている。
また、ガントレットだけ個別で使用する可能性があるかもしれないことを考えると、何かを放つようなスキルは腕にしておいた方が賢明だろう。
ルカはいつも通り鉄製のガントレットを手に取って、【魔装鍛冶】のスキルを発動する。
「……あれ?」
しかし、【魔力開放】を載せようとすると効果が切れる。
「どういうことだ? スキルは覚えてるのに、鎧を作れないって……」
ガントレットを手に取ったり置いてみたり、一度あえて潰してみたりと試してみるが、やはりスキルは発動しない。
「んー、ダメか……」
なにせ【魔力開放】なんて名称のスキルだ。
心身ともに充実してる状態でないと発動しないなんて可能性もあるのではないか。
ルカはつい先日大物と戦ったばかり。
意外と疲れがあるのかもしれない。そう考えて、大きくを伸びをする。
すると以前青銅で造った1/8甲冑が、なんとなく目に付いた。
「……これって青銅で作っても、同じような効果が出るのかな?」
手に取った甲冑をじっと見つめる。すると――。
【青銅】
耐衝撃:1
耐魔法:2
パワーレイズ:1
滑走跳躍:1
魔力開放:1
何かが視えた。
「なんだこれ……いやちょっと待て、これってもしかして!」
どうやら【審眼】は【魔装鍛冶】自体の強化で、素材を『見る』スキルのようだ。
ここから浮かび上がる、一つの可能性。
「金属によって、載るスキルに違いがあるのか?」
あらためて鉄のガントレットを手に取り注視する。
「鉄で作った場合の効果は?」
【鉄】
耐衝撃:2
耐魔法:1
パワーレイズ:2
滑走跳躍:1
「……やっぱり。【魔力開放】は青銅じゃないと発動しないんだ。しかもこの数値を見るに、おそらくスキルの載り方にはレベル差がある。要は同じスキルでも金属によって効果に差が出るってことか」
数字がレベルと仮定すれば、鉄の鎧は【耐衝撃】と【パワーレイズ】に秀でていると考えるべきだろう。
生まれた仮説。
こうなれば、やるべきことは決まっている。
「さっそく検証だ」
予想通り、今度は【魔力開放】スキルがきっちり発動する。
青銅は鉄ほど豊富には余っていないが、それでもガントレットくらいなら問題なし。
即座に【魔力開放】スキルを載せたガントレットを完成させると、先日タックルをかました岩の前へ。
ここなら木々も少なく、ある程度視界も開けている。
「さて、どんな効果があるのか……」
これまで発現したスキルは、どれも強力だった。
放出という文言がある以上、攻撃スキルの可能性が高いと踏んだルカは念のため鎧を身にまとい、青銅製の左腕を突き出した。
昂る期待にワクワクしながら、スキルを発動する。
「行くぞ、魔力――――解放!」
すると次の瞬間、左手に荒々しい閃光が走り出す。
「うおおおおっ!?」
放出。放たれた強烈な魔力は、夜空へと消えていく。
「これはまた……すごいな」
感じる疲労感の中で、思わずこぼす。
見れば岩の上部。魔力光のかすめた部分がごっそり削り取られていた。
どうやら本当に、魔力をただ放出するスキルのようだ。
炎を始めとした別元素に変換していない分、威力が高いのだろう。
「これなら用途によってパーツを換装するなんてのもありかもしれないな……そうなると、インベントリめちゃくちゃ便利だぞ!」
いざという時に瞬間的に換装して攻撃方法を変更する。
それは間違いなく、強力な武器になるだろう。
「……でも」
同時に一つ、気になったこと。
「これ、全体化がかかってないな」
こんこんと叩いた衝撃が、普通に左腕に伝わってくる。
【耐衝撃】がかかっていれば、こんなことはありえない。
そうなるとおそらく、【耐魔法】も載っていないだろう。
現状この青銅製のガントレットは、ただの魔力砲だ。
それでも冒険者、中でも戦士系の者たちはノドから手が出るほど欲しがる一品。
ルカにしても換装すればいいだけなのだから、そこまで問題ではない……ただ。
「気になる。これは一体どういうことだ?」
このまま放ってはおけない。
「仕方ない、これも検証しておくか……!」
今夜も、鍛冶場にはまばゆい火花が舞う。
しかし飛び散る火花や炉の炎より、燃えるルカの目の方が明るく輝いていたという。
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