第8話 偉業の始まり
ウインディア王国では、魔物の多くがダンジョン内に現れる。
だが稀に、ダンジョン外部にも強敵が生まれ出る場合もある。
「おい、その話は本当か!?」
「ああ間違いない! 確かにこの目で見た!」
二人のベテラン冒険者が、大慌てで森を駆けていく。
「それならAランク冒険者、いや最悪を考えて王国騎士にも助けを求めた方が良さそうだ」
「ああ、もう二人伝令に向かわせてる」
「よりによってキングオーガが出てくるとは……下手すれば大量の犠牲者が出るぞッ!」
深夜の森。
突然訪れた危機に、流れ出す不穏な空気。
そこには、危機を伝えるために駆ける冒険者たちの姿があった。
そんな二人から離れること、数百メートル。
同じ森を疾駆する、一体の甲冑。
「さあ、ここからだ!」
迫り来る木々。
その狭い隙間を、わざと鎧の端を掠らせるくらいの感覚で軽快にすり抜けていく。
滑走スキルは、その速度すらも思い通りにすることができる。
視界が開けたところで、一気に速度を上昇。
そのまま加速に任せて跳躍する!
転がっていた大岩を悠々飛び越え、空中で一回転。
フルプレートの後方宙返り。
信じられないような軽業を見せつつ着地すると、そのまま滑走状態を維持する。
「よーし完璧だ!」
ルカは【跳躍滑走】のスキルを、すっかり我がものとしていた。
滑走により大きく広がった行動範囲を、今夜も自在に周遊する。
「…………なんだ?」
するとその目が、一つの大きな影を捉えた。
「あれは……オーガか!?」
予想外の難敵を見つけて、思わず滑走を止める。
「ギルド近くまで出て来るなんて、めずらしいな」
ルカはここで、冒険者でないがゆえの致命的な勘違いをした。
目の前に現れたのは確かにオーガだが、その中でも別格の力を持つ個体キングオーガだ。
それは三メールに届こうかという巨躯に、異常発達した筋肉をまとう悪鬼たちの王。
首に下げた石の首飾りと、その手に握られた重厚な大剣こそが王たる証。
その姿を拝むことができるのは、一流の冒険者のみ。
ダンジョンの下層階でようやく、稀に見られるくらいの大物だ。
もちろん下手な冒険者が相手にしていいような魔物ではない。
不運にも相対してしまったら、死に物狂いで逃げるのが鉄則。
それにもかかわらず。
「このままにしたらギルド付近の住民が危ない。それに……この鎧が一緒なら」
ルカはやはり冒険者ではないがゆえに、ありえない決断をしてしまう。
「…………勝負だ」
その進行方向へ先回りして、足を止めた。
走る緊張に、ノドが鳴る。
何せダンジョン前ギルドで働き出してから、初めての実戦だ。
自然と、鼓動が激しさを増していく。
「来た……」
やがて、堂々たる歩みと共にキングオーガがやって来た。
その目に捉える。自分を待ち構えるかのようにして立つ、武骨な全身鎧の戦士を。
どちらともなく、構えを取る両者。
キングオーガは巨大な剣を、ルカはインベントリから取り出したハンマーを手に間合いをはかる。
静まり返る、夜の森。
ぽっかりと空いた平地にて、両者は同時に動き出した。
「はああああ――っ!!」
先手を打ったのはルカ。
滑走で一気に距離を詰め、ハンマーを上段から叩き込み行く!
「ッ!!」
その意外な挙動と速度に虚を突かれたキングオーガは、これを巨剣の峰で受け止める。
始まる異色のつばぜり合い。
それは、あまりに無謀。
剛腕を誇るキングオーガ相手に、力勝負を挑むなど愚策以外の何物でもない。
しかし……。
「オ……ラァァァ……!!」
まさかの均衡。
それどころか徐々に、キングオーガが押されていく。
ありえない事態にわずかな驚愕を見せる鬼王。しかし。
「ハンマーが!?」
根負けしたのは、ハンマーの柄の方だった。
ヘッドが地に落ち、ルカはバランスを崩す。
キングオーガはその隙を逃さない。
豪快な風切り音を鳴らしながら、手にした巨剣を薙ぎ払う!
「ッ!!」
剛腕から放たれるその一撃は、岩をも砕く。
しかしルカは――。
「来いっ!!」
ハンマーの柄を投げ捨てると、なんとその一撃を甘んじて受けにいく。
浅はかとしか言いようのない判断。キングオーガは超重量の一撃を叩き込む!
「……ッ!?」
しかし人間など盾ごと分断する必殺の薙ぎ払いは、鈍い音を立てただけ。
武骨な鉄の鎧と【耐衝撃】によって、完全に受け止められていた。
強靭な体躯から放たれる豪剣ですら、ルカにはダメージ足りえない。
驚きに表情を変えるキングオーガ。
その脇腹に、ルカの拳が突き刺さる。
「グォッ!!」
キングオーガは、ルカに向けて左の拳を振り上げる。
「させるかあっ!!」
「ッ!?」
常人であれば一撃で内臓を破壊され尽くすほどの一撃はしかし、【パワーレイズ】の載った右手一本で受け止められた。
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