第7話 成長は止まらない

 その文言に、思わず息を飲む。

 つい先日、【耐衝撃】の異常な効果に驚かされたばかりだ。


「もしもこの【耐魔法】まで【耐衝撃】レベルなら、とんでもない防御性能になるぞ……」


 想像して思わず、身体がブルッと震える。


「いや落ち着け。【耐魔法】の効果は俺一人じゃ確認できない。まずはこの【滑走跳躍】からだ」


 水面に書かれたスキルの説明文には、以下のように記されている。


【――この技を持って作製された防具は、大地を自在に駆け、華麗な跳躍を可能とする】


「……跳躍はまだしも、地を自在に駆けるってなんだ?」


 さっそくスキルを発動し、鉄製の靴を作ってみることにする。

 これも廃棄鎧を使っての作り直しだったこともあり、時間はそうかからなかった。


「よし、軽く試してみるか」


 さっそく鍛冶場の外に出て、完成品を装着。


「行くぞ。まずは滑走からだ! 行けー!」


 そう叫んで一歩踏み出した瞬間、上半身を置き去りにするほどの勢いで鉄靴が前進を始める。


「お、うおおおおっ!?」


 それは歩行ではない。

 まるで氷の上を滑るがごとく、鉄靴が地上を滑走しているのだ。

 しかも……予想以上の速度で。


「ちょっ、まっ」


 砂煙を起こしながら猛烈な勢いで進むルカは、後方へ持って行かれそうになる身体をどうにか起こす。

 すると目の前に現れる、一本の樹木。


「お、おおおおい! と、止ま、止まっ」


 その太い幹は、もう目の前まで迫っている。

 もちろんこのまま行けば、激突する他にない。

 ――――跳躍だ!

 だがここでルカは思いつく。

 そう、新たなスキルの名は【滑走跳躍】

 考えている暇はない。

 ひざを曲げ、溜めた力を一気に解き放って全力で跳躍する!


「……う、おおおおおおおおっ!!」


 すると予想通り、常人にはとても不可能な跳躍力を発揮。

 そのまま星の輝く夜空に羽ばたいて――。


「ぐぎぇっ!」


 木の中腹に激突した。

 そのままズルズルと地面に落下してきたルカは、木の根元で仰向けになったまま動かない。

 しかし。

 身体をしたたかにぶつけたにもかかわらず、その身体は震えていた。

 全身を駆け抜けていく、強烈な予感で。


「……このスキルも、使いこなせればかなり強力だぞ」


 この移動速度と跳躍力は、間違いなく武器になる。

 そして何より。


「どうなっちゃうんだ……これ。【耐衝撃】に【パワーレイズ】そして【滑走跳躍】とまだ見ぬ【耐魔法】。これらの全てを搭載した鎧は一体……どうなってしまうんだ!?」


 本来であれば、そんな重装備で戦うことはほとんどない。

 フルプレートには、それだけ欠点があるからだ。

 ただ、それら防具全てにスキルが付くというのであれば話は別だ。

 あまりに異色ではあるが、むしろフル装備の方がいい。

 その方が強くなる。さらに。


「それだけじゃない……! インベントリが活きてくる!」


 これまで『倉庫くん』と呼ばれてきたルカ。

 鎧鍛冶としての仕事を支えてきたスキルが、一気にその意味合いを変えてくる。

 全身鎧最大のデメリットである着脱の手間や、体積や重量による運搬の苦労は、まるでない。


「早く、早く作ってみたい……っ!」


 興奮が高まっていく。

 高鳴る鼓動と、止まることのない武者震い。


「いくつもの驚異的スキルを乗せた鎧。そんなの……とんでもないことになるぞ……っ!」


 ルカは意気込みながら立ち上がる。


「でもまずは……【滑走跳躍】の練習からだな」


 これまでの全スキルを乗せた鎧。

 それを扱うには、この【滑走跳躍】という特殊なスキルは是非ものにしたい。

 ルカはさっそく、鎧を装着した状態で滑走の練習を再開する。

 上がる意気、血が沸き立つような感覚。

 ワクワクが止まらない。そして。


『――――とんでもないことになる』


 そんなルカの予感は、すぐに現実のものとなる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る