アルティメットスキルオンライン~LV1から始める魔王討伐~
@Alphared
第1話 SLOとUSO
「クッ、やばい、リオン頼む!」
「任せてっ!……聖なる癒しを与えよ、ヒール!」
リオンの杖の先から白い光が放たれ、前線で戦っていた戦士、ナオトの身体を包み込む。
「全快だ。助かるっ!」
ナオトはそれだけを言うと、目の前の巨人の剣を受け止め弾き返す。
残りわずかだったHPが回復したのを見て、リオンはそっと胸をなでおろす。
MPは残りわずかだけど……ポーション使うかな?
リオンは自分の残存MPとナオト達が抑え込んでいる巨人の残存HPを確認する。
ウン、いけそうだ。
リオンはそう判断すると、呪文の詠唱を始める。
「天に遍く女神シルフィアに願い奉る。聖なる魂の光輝く力を顕現し……。」
「クッ、リオンマジかよっ!……みんな離れろっ!リオンがっ!」
ナオトの指示に従い、蜘蛛の子を散らすようにさっと離れる戦士たち。
巨人の周りに人がいなくなると同時にリオンの詠唱が完了する。
「……彼ものに聖なる鉄槌を!シャイニングジャベリンッ!」
無数の光の槍が巨人に降り注ぐ。
その数と破壊力は膨大で、もし、巨人の傍に人がいたら巻き込んでいたことは間違いない。
ゴゴゴゴゴゴ……。
無数の光の槍をその体に浴びた巨人のHPは急速に減り、その活動を止めるかに見えた。
しかし、最後の残された力を振り絞って、リオンへとその拳を振り下ろす。
「ウソッ!まだうごけるのっ!?」
大呪文を詠唱したせいで、動けずにいるリオン。
とどめを刺せると判断したからこその大呪文だったが、その判断は甘かったようだった。
もともと防御の薄いリオンの装備ではあの攻撃に耐えられないだろうと、覚悟を決めるが、いつまでたってもその時は来ない。
そっと目を開けると、リオンを庇う様にして立っているナオトが、巨人の拳を受け止めていた。
「ナオト、そのまま抑えていろよ!」
横から声がかかり、大剣を構えたリカルドが巨人に止めを刺すべく、巨人に向かって走り込んでいる。
「えっと、ナオト、その……ありがと。」
「気にするな。今に始まったことじゃないだろ。」
「ウン、そうだね。」
ナオトとそんな会話をしている間に、リカルドが巨人を切り裂き止めを刺す。
「終わったぜ。だけどリオンもなんだってまたシャイニングジャベリンなんて選んだんだ?シャイニングフレアでもよかっただろうに。ナオトの言葉がなければ何人か巻き込まれていたぞ?」
リカルドが呆れたように言ってくる。
「ウン、まぁ、ネタになるかと思って。」
リオンは悪びれもせず、笑顔でそう言う。
「最後の巨人との決戦。激しい戦いに傷つき倒れる戦士たち。長く苦しい戦いを制した時、その場に立ってるのは可憐な乙女のみだった!……ってシチュ萌えない?」
リオンはハート一杯のエモを出しながらそんなことを言う。
「……悪くないから文句も言えん。」
リカルドが肩を落とし、諦めたように呟く。
リオンだって、普段ならそんなことはしない。
だが、今日だけは、何か後世に残るようなネタをやりたかったのだ。
なぜなら今日は……。
「よし!じゃぁ、もう一戦行くかぁ!最後はリオンのシナリオ通りにな!」
「「「「「「おぉ~~!!」」」」」」
ナオトの声にリカルドを始めとしたその場にいた戦士たちが雄たけびを上げる。
「いいな、お前らっ!最後のスクショ撮り忘れるなよ!」
「大丈夫っす!動画の準備もバッチリっす!」
リカルドが叫ぶと、それぞれに応える声が上がる。
皆ほんとにノリがいいんだから……とリオンは思う。
だったら、と、リオンは前に一歩進み出て声を張り上げる。
「みんなぁ~、頑張って、伝説を残そうねぇ~!生き残るのは私だけだけどぉ~!」
リオンの声に、周りから笑いと賛同の声が上がる。
あ~、もう楽しいなぁ。この瞬間がずっと続けばいいのに……。
リオンはそう考えるが、物事には終わりがあるのが常である。
でも、最後までは、この瞬間、この時間を楽しもう。
そう考えて、新たに表れた巨人に対峙するのだった。
◇
「あ~、終わっちゃったか。」
真っ暗になった画面を見て浅羽涼斗はつぶやく。
画面には『長らくの御愛顧ありがとうございました』の文字が映し出されている。
涼斗はその文字を眺めながらしばらくの間ぼーっとしていた。
涼斗がハマっていたオンラインゲーム『セカンドライブオンライン』が、この零時をもってサービス終了したのだ。
どうせなら朝までやればいいのに、と思わなくもないが、そうすると昼まで、夜まで……と、キリがない。
そういう意味では日付の変わるこの時間というのが妥当なんだろうと涼斗は思う。
「もう、『リオン』とは会えないんだなぁ。」
マウスを動かし、画面を切り替えてフォルダを開く。
その中に入っているいくつかのファイルを開くと、さっきまで画面で動いていた『リオン』の画像が次々と現れる。
初期装備のリオン、街中で普段着のリオン、伝説装備のリオン、ドレス姿のリオン……どれもこれも涼斗の宝物なのだが、この姿が動くことは2度とない。
そう思うと、涼斗の心の仲が寂寥感に包まれていくのだった。
「まだ盛り上がっているだろうけど……。」
涼斗は、いつものスレッドを開こうとしてやめる。
もう終わったことに対して未練がましくしがみつくのはなんとなくいやだったのだ。
それに、今顔を出したら絶対に連絡先とか聞かれる。それだけは避けたい事だった。
だから、涼斗はいつもより早い時間ではあるが、早々に布団に潜り込むことにした。
◇
リオン:「今いい?忙しい?」
ナオ :『大丈夫だよ。ここの所連絡なかったから心配してたぜ。』
涼斗はスマホの画面を見ながらチャットアプリにメッセージを打ち込んでいく。
リオン:「ごめんねぇ。ほらSLOロスてやつ?ショックで何も手がつかなかったの。」
ナオ :『わかるぜ。自分も同じだったからな。』
リオン:「ほんとはいつものスレッドに顔出そうと何度も思ったんだけどねぇ。」
ナオ :『出さなくて正解だよ。カリウスの奴が、連絡先教えろってうるさかったからね。』
リオン:「やっぱり?そういう人出てくるとは思ったんだよねぇw」
ナオ :『リアルとゲームの間に一線引きたいってやつは多いのに、それをわかってないんだよあいつは』
リオン:「そうだねぇ。でもこれからみんなと会えないって思うと寂しくなる気持ちはわかるなぁ。」
ナオ :『わからんでもないが、終わったことだよ』
リオン:「終わっちゃったんだねぇ。」
ナオ :「そう終わったんだよ。でも失恋の痛みを癒すには新しい恋をするっていうように、失ゲームの痛みを癒すのは新しいゲームを始めるのが一番さ。』
リオン:「失恋ってwwそうだね、新しい恋(ゲーム)を探しますかぁ。」
ナオ :『そんなあなたに朗報です。』
リオン:「なになに?何かいい情報あるの?」
ナオ :『っと、そろそろ時間だ。URL送っておくからそこみてみ?じゃぁね。』
リオン:「ん、Bye!」
涼斗はそのあと送られてきたURLをコピーすると、スマホを閉じて教室へと向かう。すでに予冷はなっているので急がないとまずい。
教室へと向かいながら先ほどのナオとのやり取りを思い返す。
「新しい恋(ゲーム)ねぇ。」
あの筋骨隆々の脳筋からそんな言葉が出てくるとは、と涼斗は思わずが緩むのを抑えきれなかった。
さっきのチャットの相手の「ナオ」はSLOのフレンドのナオトだ。
2年近くの付き合いになるが、お互いに本名も顔もしらない。
彼は『ナオト』というキャラ名の筋骨隆々な斧戦士、涼斗は『リオン』というキャラ名の可憐な精霊使い兼ヒーラーとして一緒にパーティを組んでいたのだ。
そう、あの『リオン』の中の人は涼斗だった。
見た目可愛らしい女の子を扱う涼斗のことを周りはリアル女の子だと信じて疑わない……はっきり言えば涼斗はSLOの中で『ネカマ』プレイをしていたのだ。
涼斗も最初はネカマプレイをする気は無く、女の子のキャラを使っていたのも『どうせプレイするなら可愛い方がいいじゃないか』と言う理由だったりする。
しかし、可愛いキャラを使いたいという欲求のままに、見た目に気合いを入れ、しぐさや話し方にも気を付けていた結果、周りからリアル女の子と誤解され、ちやほやされるようになり、ホントの事を言い出せないまま現在に至っているというわけだ。
だから、こうしてゲーム外でもチャットをするようになった今でも、本当のことを話せていないので、ナオトは涼斗の事を女の子だと思って話しかけているはずだ。
「っと、ゲームキャラが脳筋だとしても中身は違う可能性もあるのか。」
涼斗は自分のことを棚に上げていたので、その可能性に初めて気づく。
「『ナオト』は脳筋単純バカだけど、中身はもっと繊細で気配りができるイケメンとか……いや、ないなそれは。」
というか中身がイケメンだったら仲良くできない気がする。
それだけイケメンに対するオタクのヘイトは高いのだ。
最もナオトなら「ヘイトを集めるのもタンクの役目さ」と笑いそうだけどな。
涼斗がそんなことを考えているうちに午後の授業が終わる。
教師が何を話していたかまでは覚えていないが、板書はノートにとってあるので、後で見返せば何とかなるだろう。
涼斗は、手早く帰り支度を済ませ、飛び出すように帰路に就く。
SLOが終わった今、帰っても特にやることはないのだが、長年染みついた癖というのはなかなか抜けないものである。
帰宅すると、涼斗は着替える合間にPCを立ち上げる。
リビングに行って飲み物とおやつを用意すると改めてPCと向かい合い、昼間ナオトから教えてもらったURLを打ち込みサイトを開く。
『システムを一新し、業界初のVRMMORPGとなって、あのSLOが帰ってくる。その名も「アルティメットスキルオンライン」乞うご期待!』
涼斗の目に飛び込んできたのはそんな文字列と、期待を煽るに十分なキービジュアルだった。
「な、何……だと……。これは確かに新しい恋(ゲーム)だぜ。」
涼斗は、早くもまだ見ぬ世界に思いを馳せるのだった。
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