第1-4話 入れ替わり
「えっと……。これで僕は【魔法】が使えるようになったんですかね?」
「知らないわよ。私は倒したいとかいう相手も分からないから、何もできないじゃない」
フルムさんの声が今の僕にはどこか遠くに感じた。
今の僕は、【魔法】が使えるようになったのか試したい――それだけだった。
そんな僕のソワソワとした気持ちを感じ取ったのか、フルムさんが言う。
「はぁ。早く試したくて仕方ないって感じね。私のことは気にせずに試すといいわよ」
「お、お言葉に甘えて」
確か魔法は詠唱すれば発動するはずだ。
詠唱はフ【属性・形状】の順で唱えることで、【魔力】が変換され、具現化する。
でも――。
「……」
「どうしたの?」
「そ、その……属性ってどうやって分かるんですか?」
そもそも、初めて【魔法】を使うのだから、自分の属性など分かるはずもない。
フルムさんは驚いた表情を浮かべるが、すぐに教えてくれた。
「いい? 詠唱は属性を唱えることで威力を発揮するけど、【形状】のみでも発動は可能なのよ。不完全だけどね」
「な、なるほど」
僕は身体の内側に流れる【魔力】に意識を集中する。僅かに「ピリっ」とする感覚が脳に伝わる。
後は詠唱か……。試しに簡単な【魔法】で確かめてみよう。【水】が出るか【土】が出るか。
「えっと……、【
目を瞑って近くにあった木に手を向け詠唱すると、僕の手の平から出たのは、4つの属性に当てはまる【魔法】ではなかった。
青白く光る球体が木にぶつかり、なぎ倒す。
不完全なはずの【魔法】は、とてつもない威力を誇っていた。
「これは……なんでしょう?」
僕の見間違いでなければ、【属性】がなかった。
フルムさんにも同じように見えていたのか、
「知らないわよ、こんな【魔法】。あの赤ん坊――一体、なにをしたの!?」
未知の力に驚愕していた。
ガサリ。
混乱する僕たちの耳に、草木を掻き分ける音が響いた。
現れたのは、先ほど僕を襲った獣――オオカミだった。
「また来たのね? 獣はアウラくんと同じで学習能力がないっていうけど、本当だったのね」
「だから、僕が馬鹿なのは否定できませんけど……」
下らないとばかりに、フルムさんは【火】を生み出し、鞭のような形状に留めて振るう。
「食らいなさい、【
炎の鞭がオオカミの首へと伸びるが――。
「た、立った!?」
オオカミが立ち上がり、後ろ脚を使って大きく後退した。それだけじゃない。着地と同時に今度は前にへと加速し、フルムさんに向けて爪を構えて振りぬいた。
まるで、往年の拳法家のような動き。
知性のない獣とは思えなかった。
「……どうやら、アウラくんと同じというのは誤ってたようね……」
「フルムさん……」
今の一撃を回避できなかったのか、フルムさんの右肩からは血が流れていた。肩を強く抑えて止血を試みているけど、赤い流れは止まらない。
「はぁ……、はぁ……」
フルムさんは痛みを吐き出すように、大きく呼吸を繰り返す。
そして、最後の力を振り絞るかのように、手を掲げ、オオカミの周りに【火】で円を作り上げた。
「【
【
一定時間、円状に属性を放出する【魔法】のようだ。確かに、これならば火を恐れる獣は中から出られない。
けど、そんなに長くは持たない。それが分かってるからこそ、僕だけでも逃げろと言うのだろうが、フルムさんを置いていくなど僕にはできない。
「で、でも!」
「良く分からない【魔法】だったけど、折角、手に入れたのでしょう? だったら、ちゃんと生きなさい!!」
「フ、フルムさん」
――フルムさんがあの赤ん坊との取引を交わしたのは僕がいたから。
あそこで断れば僕も【魔法】を貰えなくなるから、条件を飲んでくれたんだ。
今だって僕を生かすために――。
「う、うわああああぁ!!」
内に秘めた感情を吐き出すように僕は両手を前に突き出す。
この思いを、全て吐き出すんだ。
詠唱する余裕もなく、僕はただイメージする。小さな【
ドドドドドド。
僕の思いに、イメージに答えるように両手から無数の【
逃げ場のないオオカミは前足だった腕を使って防ぐが、その物量に押され、徐々にダメージを追っていく。
「オオオオオオオオ!」
息が続く限りの雄たけびと青白く光る弾丸の雨。
「ど、どうだ……?」
全てを出し尽くした僕は、その場に倒れ込んだ。
倒れた姿勢のまま、顔を上げて揺らめく炎の先を見つめた。
「ガ、ガルルゥ」
攻撃を防ぎ切ったオオカミが、ニヤリと牙を覗かせて一歩前に出る。
だ、駄目だ……。
ドサッ。
僕が諦めると同時にオオカミは倒れ、動かなくなった。
「や、やったの……!?」
「そう――みたいね」
フルムさんが【魔法】を解除する。
傷が深いのか、血は止まっていない。
このままでは、出血多量で死んでしまうのではないか?
「早く、傷を治さないと!!」
僕に出来ることを必死に考える。今、オオカミを倒した力を試すのはどうか?
まだ、どんな力が分かっていない。
もしかしたら、傷を癒す効果があるのではないか?
未知の力を使おうと手を当てたところで、
「落ち着きなさい。私の傷を深くする気なのかしら?」
フルムさんに止められた。
今、僕の力で分かっていることは、内側の【魔力】を質量を持って放出すること。それをフルムさんに向けて放てばどうなるのか――目の前で倒れているオオカミを見たら誰だって試そうとはしないだろう。
「で、でも、どうすれば――」
成す術もなく慌てる僕の頭に――僕以上に慌てた様子で響く声があった。
『え、ちょっと!? なんで君が【放出】の力を手に入れてるんだい!?』
中性的な声が脳内で反響する。
この声は先ほどの赤ん坊の声と同じだった。先ほど、赤ん坊がいた祠に視線を動かすが、光ってもいなければ扉が開いてもいない。
それでも声は脳に直接語りかける。
『君には【陽】の属性――活性、回復の【変換器官】を与えたはずなんだけど!? て、ことはまさか――与えた力が入れ替わってる!?』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます