顔はぎ
ツヨシ
第1話
ある日、卓也の近所、正確には二軒隣に四十代くらいの男が一人越してきた。
数年前から空き家になっていた家だ。
その男の見た目が明らかに普通ではなかった。
顔は不自然なほどに青白く、まるで死人のよう。
大きなぎょろ目で、服も見たことのないような服を着ていた。
なんというか肌を隠すための布を直接身体に張り付けたような。
それも何枚もの色違いの布を使って。
言葉にするのは難しいのだが、そうとしか言いようのない服だった。
それが背が高くて異様に細い体と相まって、とにかく気味が悪いのだ。
そして母によると、ほとんど家に閉じこもっているらしい。
仕事はなにをしているのか、食事や日用品の買い物はどうしているのかと心配になるくらいに。
めったに家から出てこない上に、引っ越しのあいさつも無かったので、ほとんど誰とも顔を合わせていないのだが、珍しく会った人によると、あいさつをすると一応あいさつを返してきたそうだ。
ただその声は低くてかすれて聞き取りにくく、顔はとりあえずこちらを向いていたのだが、目はどこを見ているのかわからなかったそうだ。
それでも特に害はないし、いたって大人しいと言うことで、気味悪がられてはいたがなんだかの苦情はなかったようだ。
ところがある日、騒ぎがあった。
少し離れているところに住んでいる、卓也の通う小学校のクラスメイトのよっちゃんが騒ぎ出したのだ。
「人形の顔が……」
よっちゃんは人形を集めるのが趣味で、十体以上の人形をもっていたのだが、その人形の顔がはがされて、基礎がむき出しになっていたそうだ。
それもよっちゃんが家に帰って自分の部屋に入った時にはなんともなかったのだが、夕食の際に部屋を出て戻ってくると、人形の顔がなかったそうだ。
その時家には、よっちゃんとお父さんとお母さんがいたというのに。
誰がどうやって侵入し、何のためにこんなことをしたのか。
警察も来たが、結局何もわからなかったようだ。
それから数日後、今度はとくちゃんの人形の顔がはがされたと騒ぎになった。
とくちゃんはクラスメイトではないが、卓也と同じ小学校に通う近所の男の子だ。
とくちゃんはソフビの人形を数体持っていたのだが、顔の部分がきれいに切り取られていたそうだ。
それもよっちゃんの時と同じように、家にはお父さんとお母さん、そしてお兄ちゃんまで家の中にいた状況で起こっていた。
再び警察が来たが、やはり何もわからなかったそうだ。
一部では、最近越してきたあの気味の悪い男がやったのではと噂になったが、何の証拠もなく噂止まりだった。
そしてさらに数日後、今度はみくちゃんの家で同じことが起こった。
みくちゃんはぬいぐるみを集めていたのだが、その数体のぬいぐるみの顔の部分が、丁寧にはぎとられていたのだ。
この時もみくちゃんを含めて家族五人が家にいたのだが、みくちゃんが少しの間自分の部屋から出ていた隙に、はぎとられてしまったと言う。
警察がまたやって来たが、前回と同様に何もわからないまま。
一体犯人はどうやって家人に気がつかれずに侵入して犯行に及んだのか、そしてその動機は。
全て不明のままだ。
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