第6話 ESCAPE
御代志町の悪い所、それは研究所だった。
どんな研究をしているか分からないのにずっと税金だけを吸い上げるがん細胞だと人々は嫌悪していた。最近になってその兆しは増して月一の物資申請も週一と言う頻度。人々は研究所の廃止を訴えた。もしも有害なガスが町に広がってしまったら御代志町に住めなくなってしまう。美しい空気が汚染されるのが我慢ならなかった。
10名が研究所内に入り、戻って来たのは6名。残りの4人が何処に行ったのか。どこに消えたのか。研究所の人間に拉致されてしまったのではと暗い噂は堪えない。
警察は政府研究機関と言うだけで相手に出来ない。
「俺はさ。この町の人達を常に笑顔で見送り迎えたい。駅員として電車を導く車掌として」
不穏な町、御代志町なんてレッテルを張られたくない。かつては光が絶えない町として自然に囲まれた気持ちの良い町として観光客もたくさん来てくれた。
研究所が出来てからと言うもの、観光客は足が遠のいた。
真弥は何としても駅だけでも活気づいてほしかった。真弥は人々の笑顔を見たい。だから常に笑顔だ。
「今後のオフ、抗議に参加する予定なんだよね」
「抗議?」
研究所への抗議運動。数名が参加しているらしく真弥も研究所がある事で不安になっている人がいる事を研究所に伝えるのだと言う。
廬が狙われたのも町の治安が少しずつ悪くなっているからではと真弥は危惧している。異動で来たとしてもこの町の事を好きになってほしい真弥にとってこんな寂しい出来事は求めていなかった。
治安が良くなれば警察だって廬の件を受けてくれるかもしれない。気持ちに余裕があればきっとと不明瞭な事ばかりを言う。
「なら、俺も行く」
研究所がどう言う所なのか知らないが危険な所だと言うなら真弥だけじゃないにしても心配だった。友人を放り出すなんてことは廬には出来なかった。
真弥は「そこまでしなくても良いんだぜ?」と言ったが倒れていた所を見つけてくれたお礼と言って廬は引かなかった。
「けど、瑠美奈ちゃんはどうするわけ? まさか家に放置にするわけじゃないだろう?」
「違う。何か方法を考える」
「わたしもいっしょにいく!」
二人の会話を聞いていた瑠美奈が珍しく少しだけ大きな声で言った。
瑠美奈も研究所に行くのだと引き下がらなかった。危ない所だ。子供を連れて行く場所じゃないと説得しようとすると瑠美奈は俯いて「そこにいた」と呟いた。
「……わたし、そこにいたの」
「そこにって……研究所にか?」
「うん、けんきゅうじょ……からにげてきたから」
それは真弥の仮説とほぼ同じだった。瑠美奈は研究所から逃げ出して山に隠れ住んでいた。イムは研究所で知り合った友だちで逃げる際について来たと言う。
「だから、わたしがいたら……きっといれてくれる。つれていって」
「瑠美奈ちゃん」
「ダメだ」
廬は瑠美奈の提案を否定した。研究所から逃げて来たのにまた研究所に行くなんて可笑しい。
死んだ父親と言うのは研究所で犠牲になったと言うことじゃないのか。行方不明の母親だってもしかしたら研究の際に蒸発してしまった可能性だってある。違法で危険な研究をしていた可能性だってある。そんな所に再び瑠美奈を連れて行くなんてこと廬には出来なかった。
「でもきっとわたしがいかなかったら、だれもけんきゅうじょにはいれないとおもう」
「どうして言い切れるんだい?」
「せんせいたちは、わたしをさがしてるから」
瑠美奈は研究所で『個体識別B型21号』通称『B21』と呼ばれていたらしい。
瑠美奈は、人間と怪物の間から生まれた子供であり、怪物の特異能力を引き継いだ個体として研究所で飼育されていた。だが瑠美奈は自分が生まれた意味を知ってしまい逃げて来た。誰にも何も言わず家出をして約一年間山の中で過ごした。
そんな突飛な事を言われても廬は情報が多過ぎて混乱していた。
瑠美奈が研究所の被験者だった。なんて話を真に受ける方がどうかしている。それも怪物とのハーフだと言われて納得がいくわけがない。
「頑張ったな。瑠美奈ちゃん」
そう言って瑠美奈の頭を撫でたのは他でもない真弥だった。屈んで瑠美奈を撫でる。その話を信じて同情するわけではないが、ただよく此処まで頑張ってくれたと意味合いが込められていた。
「それならなおの事、研究所には停止してもらわないとな」
瑠美奈のような子供を守る為に大人がやるべきことは全てやるのだと意気込んでいた。
「瑠美奈、お前は俺たちの事を嫌わないのか?」
「? きらわない」
瑠美奈は人間と怪物のハーフだからと言って人間を嫌悪したりしない。
寧ろ真弥は、瑠美奈が廬に見つかるまで人に素性を明かさなかった事を心底安堵していた。この町の人たちは小さな不穏分子でも嫌う。平穏が崩れてしまう事を恐れているのを真弥は知っている。だから外から来た廬が瑠美奈を見つけてくれて本当によかったと思っている。
「ありがとう。だけどもう大丈夫。俺たち大人に任せてくれよ」
「……うん」
「俺たち?」
「瑠美奈の保護者だろ?」
廬は頭の中を整理していた所為で話半分で聞いていた。
だが確かに廬は瑠美奈を守りたいと思って養子にした。両親がいない事で山の中にずっといた。なんて話を真に受けた。
瑠美奈を守りたいと言う気持ちだけは本物だ。子供を守りたい。
子供を被検体にしている研究所は廬は許せないと思う。
「そうだな。何としても研究所がしている事は止めるべきだ」
なんて言ったが計画なんてない。研究所に行って見聞きしたものを外に持って行く。それだけの事だ。町の人の不安を取り除くことが使命だと思っている。
何よりも真弥がそうしたいからだ。
この町の人々は分からない事を嫌う。瑠美奈と言う不穏分子を恐怖していた。
そして外から来た廬も少なからず遠巻きに見ていたに違いない。その恐怖対象が二人揃っている事で町は少しだけ安心する。
今回瑠美奈が怪物とのハーフだと世間に知られてしまえば「そら見ろ」と指を差されてしまう。
「俺が君たちを守るぜ」
真弥はこの町は好きだ。だがこの町の嫌いな所はその町に住んでいる人のやり方だ。
御代志町は隔離されている。逃げる人はこの町の異常さに気が付き離れていく。いつか人々に溢れて活気づいて欲しいと願っている。
その願いは黙っていても叶わない。真弥は瑠美奈に協力してもらい研究所の真相を世間に公開する為に活動する。
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