導かれて 八
「ところで、
「え? あ……あぁ。どうするって言ってもなぁ」
いきなり話題が変わった事で、雷韋は困惑した声を出した。
「髪を染める為の染料もあるし、瞳の色を変える
「髪を染めるってのは想像出来るけど、目なんてどうすんだ? 目の色を変えるなんて、なんか悪影響とか出ないのか?」
「悪影響はないよ。
雷韋はまだ
う~んと唸って、組んだ両手を口元に当てる。
「無理強いはしないけど、安全を買うならこの方法しかないと思うよ」
雷韋は考え込んだ。短くない時間の中で考え込み、その間、雪李は何も言わずに雷韋を見守ってくれた。
そして雷韋の結論が出る。
「安全に過ごせるなら、髪を染めてもいい。目の色も変えたい」
「じゃあ、これから準備するね。髪を染めるついでに、お尋ね者になってしまった君の話も聞きたいな」
最後の言葉はどこか茶化すようだったが、雪李は立ち上がると一旦部屋を出ていった。
そのあと少ししてから雪李に呼ばれ、狭い風呂場へと案内された。髪を染める為だ。
髪を染めるのには時間がかかった。色を固着させる為だ。そして、その合間に眼薬を点す。だがそれは、短い悲鳴を上げるくらいには目に
目に滲みたのは兎も角として、瞳の色はすぐに染まってくれた。
けれど髪の色がなかなか染まってくれず、結局髪を染め終えたのは夜中になってしまった。
それから寝床に入ろうとしたが、雷韋の服は汚れが完全に落ちていないと言う事で雪李の服を借りたのだが、雷韋には些か大きすぎた。袖や裾を
なんとか雷韋が見られる格好になってから寝床に入ったのだが、当然ながら寝台は一つしかない。雪李は雷韋に寝台を貸してくれ、自分はソファでクッションを枕に横になる。そうして雪李からは、早々に寝息が響いてきた。
だが、折角雪李が寝台を貸してくれて横になったはいいが、雷韋はなかなか眠りに就く事が出来なかった。
雷韋は自分の姿の変わりように、やけに目が冴えてしまっていたのだ。
いや、それだけではない。今頃、
それはやはり危険だ。どう考えても。
何か、自分にとっても陸王にとってもよい方法はないものかと鬱々と考えているうちに、窓の外が白んできた。
ただ正直に言えば、陸王の事など放っておけばいいのだ、と言う考えも頭には浮かんでくる。
何せ、陸王は雷韋には関係のない人間だ。彼がどうしようと、雷韋が困る事は何もない。
それでも、目を瞑ると陸王の事が気になってしょうがなくなるのだ。
雷韋は寝台の中から雪李の様子を窺った。けれどすっかり眠り込んでいるようで、規則正しい息遣いが聞こえてくるだけだ。
だから雷韋は、そっと寝台を抜け出す事にした。
陸王を捜しに行こうと思うのだ。
どこにいるかは分からない。見当もつかない。
けれど──。
雷韋は廊下に出ると髪を一つに纏め上げて、結い紐でしっかりと髪を結った。
**********
玄関の扉をそっと閉めると、雷韋は辺りを窺った。
まだ陽は上がりかけで、空が白み始めたばかり。下町の人々もまだ眠っているようだ。空の明け方からしても、街の人々を起こす為の
辺りを窺っていても、野良猫の親子の姿があるだけだ。
雷韋は精霊と意識を通わせる時のように心を落ち着け、神経をぴんと張った。
すると、覚えのある気配が感じられた。匂いを嗅ぐように、すんと鼻も鳴らす。匂いそのものは何もしないが、感覚にくる匂いを感じようとしているのだ。
陸王の気配と陸王の匂い。
彼と
遠く薄いが、確かに陸王の気配がした。
あの不思議な感覚。感覚だけの匂いも。
今まで誰にも覚えた事のない懐かしいような、慕わしいような不思議な感覚。
あの未知の感覚を追って、雷韋は下町の道から一歩を踏み出した。
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