第12話 シャトンは知っている

 結局、エレインの身支度には二日を要した。

 庵で迎える三回目の夜。パチパチとたきぎのはぜる音を聞きながら、フランは暖炉の中で揺らめく炎を見るともなく眺めていた。

 その足元に柔らかなものがするんと身をすり寄せた。


「おう、シャトン。どうだ、あいつの様子は」


 フランが腰かけている椅子の下をぐるっとくぐってから、猫は暖炉の前でごろんと足を投げ出して横になった。


「あの娘ならもう寝たよ。良い寝顔だ。デニーさんに感謝しなきゃいけないね」

「そうか」

「あのさ、三代目」

「なんだ?」

「あの子は何だい?」


 フランは目をぱちくりさせた。『何者か』ではなく、『何か』という問いに驚く。


「他の人間とは、何かが違うんだよ。どう違うかって聞かれると困るんだけどねえ」


 シャトンは首もたげ、フランの方を向いて一生懸命言葉を探している。彼女の語彙ごいでは説明が難しいらしい。


妖精シイのやつらとは違う。もちろん、鹿やらリスやら獣とも違う。確かに人間なんだろう。だけど、他の生きて動いている人間たちと匂いが違うんだ。かと言って死んだ人間が動いているってのでもない。何というか、こう。人間なんだけど、別の種類の人間みたいだ。アタシが猫だけど猫じゃないってのと同じように、さ」


 そう言うと、再びシャトンはくるんと体を丸めた。

 彼女は間違っていない。三代目はその感覚の鋭さに舌を巻いた。

 しばし、二人は黙って炎の動きを見つめていた。

 炎は一時たりとも同じ形ではいない。暖炉の中で踊りながら燃え続ける。

 パチンと乾いた音がして、火の粉が散った。


「なあ、シャトン」

「なんだい」

「ちょっと昔話に付き合ってくれるか」


 赤毛の隠者は、弟子にも話したことのない身の上話を、この世界で一人ぼっちの生き物に語ることに決めた。

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