第148話―あざといエルフの甘々ストラテジー―

台風の多い秋。

暑いと唸っていたのがたちまちに寒さで身体を縮めたくなる気温まで下がる。

今年の秋は、ゆるやかなに訪れて流れ秋色しゅうしょくが深まる静かなものではなかった。

やにわに到来する、それも初秋ではなく秋のすえとも感じさせるほどだった。

目覚めたのは朝の十時。リビングに入ると。


「お兄ちゃんを逢えるだけで嬉しくて感無量です。えへへ、直接やっぱり逢うのは格別で幸甚の極みとはこの事ですねぇ。お兄ちゃん変わらぬ愛、大好きです。

あっ、順序が間違えましたねぇ。まずは挨拶でしたねぇ。どうもお久しぶりですねぇ。

今日もいい天気で、おはようございます」


つややかな長い髪を腰まで伸ばす美少女、いや年齢的には美人と評するべきだろうか。

ともあれ容姿端麗な冬雅はテーブルで勉強していた手を止めて出入口に駆けつけると満面な笑みを見上げて迎えてくれた。

挨拶するよりも告白してしまう勢い任せなところは相も変わらずといった風なアクティブである。


「とりあえず冬雅おはよう。久しぶりとは言っても毎日と欠かさず顔を見て連絡していたんじゃあ?」


「それはスマホ越しですからカウントには入りませんよ。とにもかくにも今日はいっぱいイチャイチャしましょう」


いつもの天真爛漫な調子でいた。なかなか訪れずスマホでビデオ通話などで取っていたが心のどこかで俺は心配していた。恥じらうよりも想いを告げる……というよりは後先を考えずに動く。

なかなか会えずの反動か、直で会ったことで冬雅の中で枷が解かれてしまい欲望を剥き出す。

キラキラした瞳を増しながら接近、この眩しい笑顔で騙されるが冬雅がしていることは妖艶な美人に置き換える。もし。そのキャラなら、なまめかしい笑みを浮かべて迫ってくる。

天使のような顔をした欲求に飢えた者は欲望に忠実さに苦笑をこぼさずにはいられない。


「そ、それよりも冬雅。なにゆえそのような格好をされているのかお伺っても?」


「えへへ、よく尋ねました。

これは裸エプロン!とは答えたかったですが唐突にそのような格好したら警戒されるし注意されると思いまして考えました。検討した結果それなら水着エプロンにしました」


そうか!裸エプロンだと刺激が強くて目には毒だし直視するのも躊躇うものがある!だが水着であれば規律の喪失そして倫理観の欠如モラルハザードが引き起こすことの懸念もない。

それでも水着の上にエプロンというのは刺激の強いものではあるが、これなら比較的に常識のあるもので事件など起きるはずも――。


「って、問題ありすぎだよッ!?

憩いの場を風紀紊乱ふうきびんらんとかなってしまうから」


危なかった。

さも当たり前のように解決策を提示しましたと堂々とした対応に受け入れそうとしていた。

冬雅は残念もう少しで計画は上手くいっていたのにと惜しそうに肩を落とす。


「えへへ、もちろん冗談ですよ。

せっかくの二人きりですから逢瀬を重ねるのも大事。ですけど執筆は捗っていますか?」


やにわに本題へと入った。いきなりだったので言葉を失ったがすぐに立ち直ると俺は「そうだね。進み具合ぐあいは、あまり」と曖昧な笑みを浮かべ、漠然とした応える。

冬雅は手を小さなおとがいに当てて思考。


「でしたら久しぶり取材デートしましょう。

このために水着エプロンしたのです」


「なるほどね。このために何も言わず、無断でリビングで入ってきたと?」


「え、えっへへ。これは驚かせようとユーモアなハプニングですよ。

別に、お兄ちゃんの寝顔を無性に見たくて来ることを送らなかったなんて……露許つゆばかりとも考えていないですよ!」


そうか。きれいに本音をダダ漏れであったがそれには触れずに俺は大きなため息をこぼす。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る