第133話―ツムギ結構の日―

足がすくまれることなく行けた。


(ときどき散歩していたから外に出ることは思ったよりも抵抗感はない。でも今は――)


「な、なんか暑くねぇ?」


「……そうだね」


悟れないよう何でもないように相槌を打つ私は彼女の横顔をチラと見る。

動悸が激しくなったのか息が乱れており整えようと呼気する声。それとたまのような汗が流れている。

たしかに暑くて夏季休業が終わっても落ち着きを知らない。でも、それだけが原因とは思えない。もう学校の建物が近づくにつれて心理的な拒絶反応が引き起こしている。


(もう大丈夫かなと見えたから応援したけど……まだ時期早々だったかな。

引き返すべきか、このまま進むべきか?)


反比例はんぴれいするように溢れていた陽気が刻まれた恐怖で表情がゆっくりと表れる。

どう声をかけるべきかと私は言葉を探しているうちに会話が途切れてしまったことを気づく。

迂闊うかつだったと自省するが時はすでに遅し、後悔するよりも励ましの言葉を!

焦燥しょうそうに駆られながら困惑する。

どうすればいいか……。


「苦しくなったら保健室でも行けばいいし、先生に挨拶するだけでもいいからね。うん!」


なにが、うん!なんだと自分に突っ込みながら私は明るい笑顔を崩さないよう気をつける。

もう気を遣われていることを悟っているが不死川紬は上手くそれを顔に出さず言葉の代わりに苦笑で応えるのだった――。

とうとう校門の前まで来てしまった。

ここは私も通っているから特段なんの感情も起きないが隣にいる友達はそうでもない。

きっと彼女の支店からしたら学校へ来ているというより学校が迫ってきているように感じているのかもしれない。


「「…………」」


どう声をかけるべきか。

戸惑っていると視界の隅に見覚えのある姿が捉えた。この見覚えのあるような錯覚をなんといったか知らない。その現象を置いて思い出そうとする時間や余裕を向けているべきじゃない。

そんなこと無視するべきなのに関心は消えず、こんなことを理解していながらも昇降口から現れた人が気になって見詰めてしまう。


「誰かいるの?」


すると私が何もしないことを訝しんで質問する。その次にどこか一箇所に向けていることに訝しげとなり私の視線を追う。


「えっ!?ううーん、あそこにね。

どこか見覚えがあるというか……可愛いからかな」


「カナカナなんかオッサンみたい」


「オッサンって……ひどいなぁ。メガネっ娘は」


軽い口調で応酬する。この言葉のチョイスもオッサンみたいで自分の発言に呆れてしまった。

さて、誤魔化すには遅いだろうし近づいてくる女子を私たちは目を離さずに見つめる。

いつもように元気さが戻ってきたのを安堵しながら昇降口から飛び出してきた少女はこちらに向かって来ている。

ここにいるのは私たちだけ。

ここが学校であるから近辺に近づくほど同じ制服で袖を通した人達による混雑状況が発生する。

なら私たちだけしかいないのは何も特殊なことでは無い。ただ単に通学する時間帯を大幅に遅らせたからだ。

この日は始業式。すでに帰宅されてから数時間が経過しており学校に生徒はいても部活などと推測している。

であるからして私たちに確実に向かってきているのは、もう見知らぬ少女ではない。

フレンドはそれなりにいるが全員の顔や名前も憶えきれていない私の知り合いか不死川紬の数少ない知己であろうか状況から考えて。


「ねぇ、どこか見たことないかな。

絶世の美少女のようだけど纏っているのが美人のようなスリムな少女を?」


「なにそれウケるんだけどカナカナ。

まだ日がそんなに経っていないじゃん。ほら思い出してよ兄ちゃんの妹の」


その意味深な言葉から知り合いなのは私もそうなのか。なら会ったことあるのだろう。

でも私の学校にあんな見た目は美少女でオーラが美人なんていたかなと見つめながら熟考をするが特定しない。


「東洋お兄ちゃんの妹?……えぇーーッ!?

まさか東洋お兄ちゃんガチの妹いたのおぉッ」


「いや、いないって聞いたよ」


向かいから走ってくる少女は疲れたのは走るのを断念して歩き始めた。……そんなかっこ悪いことするの強く誰かと重ねてみえてしまうがそんな訳ないだろうと首を横に振る。

そうだ。もう距離から見て顔の輪郭がハッキリと見える。つぶらな瞳、羽っけのある長い黒髪。


「……リアイアかな、見覚えがないよ。

ハキハキした姿は比翼と似ているようだけどね」


「いやいや、それだよカナカナたら。

目の前にいるの比翼だよ」


「……………えっ?えぇぇーーッ!?」


まさかの比翼だった。

私の知らぬとこらで冬雅さん年上グループは比翼を妹として扱っている。妹が欲しいのかなと内心はそう解釈して引いていた。

いや、そんなことよりも比翼は学校が違うから距離が離れている。

私が混乱していると校門まで近寄ってきた比翼だ。そうか見覚えがあると強烈な記憶をしていたからか。

涼しい顔で右手を挙げて白い歯をきらめかせる。


「こんにちは。

いやぁー、よく来たね紬。それじゃあ行こうか」


「その前に……応えなさい。どうして比翼がいるのか教えなさいよぉぉーーーッ!!?」


「ちょ、ちょっと落ち着いて。答えるから!」

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