第124話―異世界マナさん8―

どうしても入りたいのが言葉にしなくても真奈のはしゃぎそうな弾む声に俺は否定できるはずがなかった。

こんな事わざわざ俺が言わなくとも知っているだろうが一応。

お酒を飲むのは二十歳になってから。


「フフ、実は密かに決めていたの。

お酒を解禁したらワタシの最初の人はお兄さんにだって。な、なんだか恥ずかしい」


その恥ずかしさは俺もそうなのだけど。

俺たちは店員さんから個室を案内されて寛いでいた。まだ注文はしていない。


「…………チッ」


ひぃっ!?香音さんが本気で苛立っていらっしゃる。香音の隣に座っている真奈は、まったく気にした素振りをしていない。

というよりも警戒や危険とは一寸も感じていないのだろう。


「お兄さんと一緒に飲むことまでは決めていたけど何を注文するかまでは考え至っていなかった。あの、お兄さんどれがいいかな」


「そうだね。慣れないうちにアルコール高めは苦手意識を持つから……カシス・オレンジはどうだい?」


オレンジジュースとカクテルで異なるものを混ぜるブレンドした甘味の特徴な酒。

とても飲みやすいことでアルコール苦手や初心者によくオススメされる有名で王道のお酒であることから人気が高い。

とはいえ苦手な人もいるわけでそれは置いておくとして女性層には、とくに大人気なのだ。


「なら私も真奈さまと同じものを」


俺たちは何を飲むかを決めると店員を呼んで酒を注文するのであった。

――そういえば居酒屋に最後に飲んだのはリストラされる前になるか。冬雅が告白され、頻繁に遊びにくるようになってから足を向けるのも無くなった。……いや、そもそも根本的に酒があまり好きじゃなかった。

甘党であると酒を好まない。

注文した酒は、すぐに運んでくれた。美女二人とオッサンというアンバランスな組み合わせに奇異な目を向けないまま店員は、会釈して去っていた。ふむ、接客のプロだ。


「お兄さんが頼まれたのは獺祭だっさいでしたよねぇ。好きな日本酒なの?」


「いや、ちがうよ。ただ懐古心かいこしんから飲みたくなっただけだよ。フッ、

ダサい俺には獺祭というお酒がお似合いなのさ」


両目を閉じてハードボイルド風に応えた。


「変態って、ときどき突拍子のないこと言うよね。その前に全国で獺祭だっさいを飲んでいる人に謝ったほうがいいじゃない」


ふむ、笑いを起こそうとしたが失敗した。

香音の言葉には確かにそうなので俺は心の中で獺祭をいつも飲まれている方々に謝罪する。

ごめんなさい。


「フフ、ワタシお酒には詳しくはないのですけど獺祭といえば山口県で酒造メーカーで製造して販売されているんだよねぇ。お兄さん」


「あ、ああ。そのとおりだよ」


詳しくないと言いながらも真奈は詳しい。

そして、酒を一口してからか真奈の口は滑らかに軽くなっていた。


「カシス・オレンジ、略称はカシオレ。

カシスはカシスリキュールなんですよねぇ。

1841年にクレーム・ド・カシスとして商品として出されて先駆者はブルゴーニュ地方にあるラグート社。現在ではトップメーカーとして認知されており――」


ま、まさかカシス・オレンジに関する歴史まで話すとは……さすが真奈さん。その知識量は図書館またはウィキペディアと並べるほど。略して、さすマナ。

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