第92話―マナだけの宇宙3―

手を繋ぎながら片方には傘を握る。

しずくが弾かれるのを音楽のようにリズミカルを聴きながら肩が触れながら歩く。

しているのは傘をさしているだけだというのに心の鼓動が高鳴りを止まずになるのを反して安らぎをもたらしている。

動と静の相対するものが広がっていくのを感じながらデートじゃないと心中ひたすら唱えながら。


「いつもの景色が今日は輝いているように見える。やっぱり側にお兄さんがいるからかな」


「さあ、どうだろうね」


そんな腹立たしくなるような応えを俺はした。韜晦とうかいして居られるようにと振舞ろうとしたが返ってそれが無礼で冷たい態度になってしまったかもしれない。

考えをどこまでも読んでくれる真奈でも素っ気ない態度に負の感情を抱くかもしれない。

謝らないと横を振り向くが彼女は

柔らかな微笑していた。


「フフっ、お兄さんがワタシに冷たい態度を取るなんて誤解していないから安心して。

みなぎる情愛を抑えようとしているの分かっていますからねぇ」


相も変わらずの慧眼けいがんさに、つい苦笑を零した。推測しやすい行動しているからか読心術でも取得したのだろうか。


「もう否定しても看破されるなら俺も隠さずに応えるしかないか。

こんな場面で言うのは雰囲気を壊すかもしれないけど冬雅のこと裏切るような行為。だからこそ自制している。こんなこと言うなんて情けないことにね」


きっとこんな真奈はそんな弱いところを見たくないのだろう。

それなら灯している愛情が薄れてくれるのが望ましいことなのだけど、

そうならないでほしいと心の隅でそう祈るのもある。どちらも好きになることは簡単にいかないことは分かっていながらも悩みは一生このまま続くのだろう。


「ううん。まったく、全然、そんなないよ。

むしろ素直に応えてくれて天に昇れる気持ちになるほど嬉しかった。

フフっ、お兄さんドキドキしていたんだ。そんなに悶々もんもんするなんて嬉しい」


「は、はは。真奈らしいね」


今にも小躍りが始めそうな勢いにある真奈。

横を向いて一瞥すると頬を朱色に染まられている。共に歩いている真奈は頬を緩んでいて、宙を踏むような心地でいた。

――真奈の家に送ろうしたが折角だからと家に寄りたいと主張した。断ったがなかなか折れなかった真奈に根負けして首を縦に振る。

目的の駅に降りてバスロータリーに出る。


「懐かしいなぁ…その、覚えていますか。

お兄さんがワタシをここで引き止めたのを?」


真奈が斜め向きで見上げて言った。

固定して向けられている視線を追うと何も無い道で近くに街灯あるぐらいしかない。


「ああ、覚えているよ真奈。

ここで別れを告げた真奈のために引き止めて俺と真奈のモデルにした小説を渡した」


まだ平野真奈がJKだった時期。

告白をした彼女の気持ちには応えれないとハッキリと断った。これが最善なのかと葛藤した。どれも解決の糸口にならないと結論した俺は問題の延長にしかならない選択をした。

それで真奈は選ぶことは、やっぱりなかったが彼女は依然として明るいまま。いや

以前よりも生き生きとしている。だけど冬雅の影響を受けすぎたのか大胆な行動を取るようになってしまったけど。


「それと、お兄さんが転びそうになるのを熱くハグされたんだよねぇ。えっへへ、えへへ」


「あ、あれは――熱く抱擁していない!」


身体を揺れながら真奈は羞恥にもだえながらも言う。それを聞こえた俺はツンデレみたいな反応をするのだった。

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