第90話―マナだけの宇宙―
なにか落ち着く。
スーパーを出ると激しく雨は降り出している。
傘を出して家に帰宅しようと歩みを進める。駐輪場の近くで「山脇さん」と背後から声がかかる。
振り返ると――。
「貴方は……真奈の母親さんッ!?」
容姿や振る舞いが二十代のようにある真奈の母親さんは微笑をたたえながら近寄る。
「フフっ、まさか偶然にお会いするとは思わなかったわね。雨が激しいわね。今はお忙しいかしら」
「いえ、時間は幾らでもあります」
ニートなので時間の余裕はいくらでもある。
まぁ会社リストラという簡単には切り捨てられないのだが解雇処分。
プロ作家になろうとしているが上手くいかず、こうしていられないので脱することも考えないと。
「そうなのね。厚かましいお願いになるのだけど、真奈この日に傘を忘れていて…それで向かってほしいのですけど」
「あっ、はい。もちろん構いませんよ。傘を届けばいいのですね」
この雨だ。きっと真奈は大学の前で立ち往生とかしているのだろう。通り雨の可能性もあるが。
「いえ、山脇さんの傘だけで」
「そういうことなら……はい?聞き間違いでしょうか。それだと真奈の傘はどうするのですか」
「理解!山脇さんが駆けつけるが傘は一つだけ。続行!どうにかしようかと話し合った結果に並んで共有する。あいあい傘を」
なんだか高いテンション。瞳には
「……さようですか」
とても正気とは思えないが断れない雰囲気。
真奈とは付き合えないことを報告したのだが理由がよく分からないまま俺は真奈が通う大学へ。
――
「お兄さん、ワタシここにいますですよ!」
まるで少女のように明るく手を振っていた。
――このまま言われた通りに向かうのもどうかと思い移動の途中で傘を購入した。
元々そうするように向かって欲しいとお願いされていたこと思い出して心理的に断れなくなった。
「フフっ、お兄さんと相合傘なんて久しぶりですねぇ。今スゴくドキドキしている」
「そ、それを言うんだね。
急だけど雨は好きかい?」
好意を包み隠さずにと挑む姿勢、冬雅の影響を受けすぎたのかな。どうあれ顔に出さないよう気をつけて話題を変えようとした。
「はい、好きですよ。お兄さんは?」
「俺も好きかな。降った匂いとか」
「お兄さん聞いてくださいね。その現象なんですけど学術的な名前があるんだよ。
ぺトリコールという名称。雨が降ったときに地面から上がってくる匂いなんだよ。
ギリシャ語で石のエッセンス」
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