第70話―マナも百の質問をする②―

間がな隙がなデートするだろうと思った。

それぞれ時間や労力などを共有しようとするのが付き合い始めたばかりの特有な傾向。

しばらく独占的な生活が回ることになると考えていた。昨日までは……。


「ここが待ち合わせ場所か」


なにかで覆いたくなるような直射する日光は、今は淡くなっていき柔らかい。

ここに来たのは冬雅とデートするためではなかった。

交際するようになればデートして満喫するものであろう。そうならないのは計画を整えてようとしないことが大きな要因だと感じる。

冬雅はスケジュールがあるからと断った。

おそらく、以前にした百の質問や愛を再確認するような会話をしたことで帰宅した彼女は、それまでしたことを勢いのアプローチに恥ずかしくなって直接デート出来なくなった。

予定が空いた俺は、ゆっくりと暮らそうとしたが昨日の夜から不死川さんからラインのメッセージが送られた。

それはいつもの撮影協力。

大きな違う点があるとすれば撮影をするのは自宅ではなくレンタルスペースというところ。


「お待たせしました。お兄さん」


よく知る声が聞こえて振り返った先には真奈が立っていた。どうやら来たばかりであったが真奈から待たせてしまったと思わせたようだ。


「いや、俺も来たばかり。

それで気になったんだけど今日はツインテールなんだね」


「あの……おかしかったですか」


自信なさげに訊いてくる真奈。

いつもはポニーテールをする真奈しか見ていないので、別の髪型をしていることに目がいってしまう。なので珍しい反応をしたせいで真奈は変な髪型だと思わせてしまったかもしれない。


「そんなはずないよ。とても似合っている。

もしモデルさんや世界一の女優なんか歩いても目は真奈に向けていると断言する!」


すごく似合っている。これに尽きる。


「あ、ありがとう……はは、なんだか照れるなぁ。つむぎや比翼には感謝しないと」


「んっ?感謝」


「この髪型なら骨抜きされると助言をねぇ。

もう二十歳になるからツインテールにするの勇気がいりましたが二人から強く押されて。

でも、お兄さんのいつもと違う姿と褒められて満足度は最高レベルになっている」


満面な笑みを浮かべている真奈。

ふむ、ツインテールにしたからなのかファッションもどことなくフリル多めで鮮やかな色のある格好をしている。

それとピンクを基調としており、真奈なら選ばないようなものを考察すれば衣装これらも助言に従ったのだろう。


「まだツインテールしていい年齢だと思うけど。それで不死川さんや香音は?」


「あれ、まだ来ていない?

電車に遅れているのか訊きますねぇ」


バッグからスマホを取り出して片方の手で操作する。たぶん手の動きからして通話じゃなくメッセージを送っているのだろう。

送信して手を止めると画面を見つめながら髪をいじる真奈。ふむ、慣れない髪型に落ち着かないと見た。

送信までそう時間がかからず一分ほどで来た。


「えーとどうやら機材が重たくて遅くなるようです。それと……」


「それと?」


「み、見たらダメ!!スマホはプライベートの塊なんだから、メッだからねぇ!お兄さん」


「あ、ああ。たしかにそうだね」


どういう内容かなと好奇心で横から覗こうとしたが真奈に怒られる。いつも近くにいるから失念していたがスマホは見られたくないもの。

これは浅慮だったと俺は反省をしないと。

そのあいだ会話することなく待つことに……いつもなら真奈が近況報告とか今期のアニメなどで話しかけて来るのが今日はそれがない。

おとなしい事に違和感を抱いている。


「あの、お兄さん手を繋いでも……

よろしいですか?」


「えっ!?いや、それは構わないけど」


「そ、それじゃあ……失礼します」


真奈は手袋をつけると手を繋ごうとして手を伸ばす。おもむろに伸ばした手を触れると真奈の肩が上がった。まるで電撃を受けたかのような過剰な反応を。

これは初めて手を握るようなものだ。

それに目を決して合わせようと俺から離れた方向を見つめているし、なんだか寂しい。

もしや覗いたことの怒りが収まらないのか。


「真奈、どこか体調が悪いのかい?」


「ううん。どこも、悪くはないよ。

心の準備が出来ていないというのか」


「……心の準備?」


ポソッと小さく呟くような声で返す。

やはり態度なども含めて何かがおかしい。

どうしたんだろうと訝しんでいると不死川さんと香音が遅れてやってくる。


「いやぁ遅くなりました。

それでイチャつけましたマナマナ」


「……ふん」


明るく笑いながら俺と真奈を見ながら尋ねてくる不死川さん、それとは反対に香音は機嫌が悪くて視線は俺にだけ向けて睨む。

な、なにかしたかな思いながらも状況についてこれないまま俺たち四人はレンタルスペースを利用できる施設へと入るのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る