第51話―スイートハートの策定2―

駅の前まで二人は見送ってくれ、わたしは手を振って歩く。そのままホームに直帰せず、別方向へと向かう。

数分ほどで駅を抜けられ閑散とした住宅街が広がっている。


(わたしの父親は三人いた……)


わたしの苗字の箙瀬えびらせは、最初の父親から勝手に名乗っている。

わたしが幼い頃に父は夭折ようせつした。

そして母親は人としては尊敬する点が一つもなくて褒められたものではなかった。

そんな母は欲求を満たさんとする醜悪な感情を抑えれはない。

パートナーを探して甘えて慰めるという欲求を満たさんとするのを小さないながらも愚劣を極めていると冷めた目で見ていた。

しばらくして再婚、そして第二の父親に性被害を受けてしまった。

まだ当時のわたしは告発をすることを知らなかったから。


(ははは知っていながらも咎めようともしない。このまま家に居続けていたら壊れてしまうと危惧して家を出ていった。

警察や保護施設あることも教えられていないからパパ活を利用するしかなかった。

ちょっと検索すれば正しい人に頼れることをしなかったのは……後になって病んでいたから)


自殺しようとも考えた。けど苦痛を伴うのは、恐ろしくて出来なかった。せめて大人を騙して何らかの復讐をしてやろうと負の感情が心を煮詰めていくの決意した。

そう支配された歪んだ心を手を伸ばしたのが、おにいちゃん。


(家を泊まらせるといったけど、今の彼女に丸投げしたのは今になって考えても、どうかと思うけど。

でも後先なしと動いてくれたから今が幸せなんだろうけどね)


おにいちゃん甘い。甘党というのもあるけど、わたしに対して子供を見守るような目線を向けることが多い。

冬雅おねえちゃんも信用しているのか、おにいちゃんに誘惑まがいなことしても焦る様子をあまり見たことがない。

冬雅だけ負担するのも気が引けることもあり

途中から、おにいちゃんと二人で同棲する流れもなった。ひとつ屋根の下で、しかも就寝では寝台を共にする。

もやもやしながら道路の端を歩く、桜がまったく咲かず、自転車を漕いで走る。

そんな平穏に包まれた中で生きていることに感謝しつつ歩むべきでは無い人生をまた振り返る。


(一緒に寝て、一度も触れず誠実に振舞った。

それで好きになった。

色々とあった。社会を腐らせる毒の両親は、性暴力と育児放棄で捕まった。

二度と会うことはない。せいせいもしたけど心底どうでもよかったのが大きかった。

重要なのは、この繋がりを壊したくない)


相手を、人を好きになったのは初めてだった。それが恋愛感情で見ていたのか自信が無い。

サファイア家の養子になってから別々で生活するようになってから、その気持ちは薄れていた。

人とは意外にも恋を知らない生き物だと実感した。冬雅おねえちゃんとイチャイチャしているときでもジェラシーのような感情が湧かなかった。なによりも心配しているのは、

恋人になってから関係が悪化していないか不安だった。


(でも上手くやっているようで…良かった)

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