第1話 勇者降臨
「俺と付き合ってくれ!」
静まり返った教室に全員が息をのみ答えを待った。
「…いいよ」
その合図と同時に教室は歓喜の叫びであふれかえったのだ。まるで一種の祭りのようだ。
そんなお祝いムードを気に食わない人間が一人、それが僕だ。
僕は同じクラスの、高見沢 アイナが好きだった。ルックスも性格もたまに見せる笑顔も全部好きだったのに。
ところがどっこい同じクラスの野球部エース、水高 ヒロタカという変態坊主に先を越されてしまった。
実はクソ坊主が告白する前、僕はアイナに告白していたのだ。数週間前である。
結果答えはNO、しかも彼女を泣かせてしまった。それからというものクラスの視線が妙に痛いし、いつも陰で笑われている気がする。
そう、浮いてしまったのだ。
僕はクラスの中でもカーストは最下位、しかも身長150㎝体重100キロのダサい眼鏡属性のちびデブ、おまけに童貞クソ陰キャという自分でも救いようがないと思っているほどのキャラである。
そんな奴がクラスの中でそこそこかわいいアイナに勇気の告白をしたのだ。結果はわかっていたようなものだったが僕はその時エロ同人誌を見るのにはまっていたせいでこんな僕でも成功するんじゃないかという気持ちになってしまった。童貞の思考であると今さらながら悟った。
そんなわけで今はとても気分が悪いし、メンタルが削りに削られ学校にいづらくなったので明日から不登校になることに決めたでござる。
帰り道、やはりみんなからの視線は痛々しいものだった。
「あいつが先週アイナに告った奴か」
「あいつが彼氏になろうとかまじキショすぎてヤバ谷園」
聞こえてるでござるよ陽キャども(泣)
「うわぁ、こっち見た…逃げよ逃げよ」
もうやめて!僕のライフはゼロよ!
陽キャたちにオーバーキルされたが大丈夫だ、問題ない。
僕の家は河川敷の近くにあり、ありがたいことにその近くにはあまり学生は住んでいない。そのため帰り道をしばらく歩くと僕をじろじろ見てくるやつもいなくなった。ひとまずは安心できる。
この河川敷のことは僕が小さい時から知っている馴染み深い場所だ。仕事終わりのサラリーマンがよくここで夕陽を見ながら大敗北した馬券を片手に、涙の煙草を吸っていたり、ここはペットの散歩スポットとしても人気だったがリードにつなげたワニを散歩させているおじいさんもよくいる。おかげで最近は散歩スポットではなく、歩いたらペットが噛み殺されるデススポットといつの間にかなっていたり。
こんな感じで変な奴が日替わりで現れるこの河川敷はいつしか「魔の河川敷」と呼ばれるようになった。(これはほぼワニのおじいさんのせい)しかし、いろんな出会いがあるのがこの河川敷のいいところ。そんな河川敷が僕は好きだ。
今日の河川敷のラインナップは、あのワニのおじいさんに、川で体を清める全裸の女。そして、
「#$&’”$’&(&($&’!」
このコスプレ外国人。豪華な西洋の鎧を身に着けたダンディおじさんだ。そして僕を見るなり何を言ってるかさっぱりわからないが直感で何かをねだっているように見えた。過去、河川敷にもこんな感じのヤギがいたので僕はそのヤギに非常食のうますぎる棒(コンポタ味)をあげた。するとヤギは喜んだのか元気になりその後通行人を蹴飛ばしながら遥か彼方へ消えてしまった。その後の彼を知る者はいない。
この外国人もそんな顔をしているので僕はしぶしぶカバンの中からうますぎる棒(焼肉味)を取り出そうとした。
すると外国人は目にもとまらぬ速さで僕のカバンを無理くり奪い、中にあるうますぎる棒(焼肉味)×30本を勝手に取り出し口に頬張りやがった。
「!#”%(#$%(’&(’&$’%!(’!」
非常食を無理やり奪われた挙句、今週の分のうますぎる棒をすべて平らげられてしまったこと、誠に遺憾である。しかし何を言ってるのかやっぱりわからないが喜んでいるのが分かった。ヤギと同じくこいつも今日が終われば姿を消してしまうだろう。そう思うと気が楽になる。
さぁ、かえってエロゲーの続きだ。
「ありがとう、クソガキ」
驚いた。日本語がわかるらしい。じゃあなんでさっきまで日本語でしゃべらなかったのか疑問だがそれよりこいつの口の悪さに腹立たしくなった次第である。非常食あげなきゃよかったと悔い改める所存。
「お礼にいいことを教えてやる、私を連れていけ」
しまった、このおっさんを餌付けしてしまった。絶世の美女だったら即答OKだったが、ゴリゴリいかついイケおじだとさすがの僕もきつい。
「ごめんよ、うちペットは禁止なんだよ」
単純にめんどくさくなったので早くここを立ち去りたくなった。あたふたするもりもりマッチョマンのおじさんを背に早急に家路へとついた。
しかしその瞬間、現実ではありえないことが起きた。
川の底が嫌な紫色に輝き、魔方陣のようなものが浮き出た。不穏な空気が漂う。
「嘘だろ…」
視界が急に霧ががる。そんな中うっすらと魔方陣の中からゆっくりと黒い影が動いている。そして激しい咆哮とともに現れたのは大きく羽を広げ、夕焼けで赤色に染まった恐ろしくどでかいドラゴンの姿であった。
「ヤバ…」
逃げようとしたがさっき腰を抜かしてしまい動けない。しかも最悪なことにドラゴンは僕を血走った殺気立つ眼球でこちらをにらんでいる。
僕は目をつぶった。人は目をつぶっていれば痛みは感じにくくなるらしい。初めての予防注射も目をつぶった。注射の時は目を開ければ明日があったのに、おそらく今は次に目を開ければもはやこの世界に塵すら残っていないだろう。
「ーライトニングー」
その声が聞こえた刹那、激しい爆音と爆風が僕を吹き飛ばした。ほこりが舞う中、
少しずつ目蓋を開くと、そこにドラゴンの姿は不思議といなかった。かわりにいたのは片手に図太く輝く剣を持ったあの鎧のイケおじ外国人だった。
「あんた…ナニモン?」
「ただの勇者さ、クソガキ」
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