ハモニカと筋肉

大市 ふたつ

出発そして最終回…(続きます)

この日。僕たちはこの孤児院を出た。

当てのない旅路に着く。

未知の世界だけど、それほど抵抗はなかったように思う。

強いて言えば、おばさんのシチューの味がもう食べれないのが心残り...

「おい、荷物は持ったか?」

「もちろんだぜリーダー」

「うん!」

「...持った」

「あ、ちょっとまってぇ!」

さぁ、出発だっ!


ここは街のはずれにある孤児院。

面倒見のいいおばちゃんに育てられた僕たち5人は、前々からここを出る計画をしていた。

...いつまでも、お世話になるわけにはいかない。

ただでさえ、食べ物もお医者さんも不足している世界でここまで育ててくれた。

それだけでも十二分に嬉しかった。

でも、これ以上お世話になるわけにはいかない。そうみんなで話して決めた。

いつか戻ってきた時に、恩返しをしよう。

そう胸の中に誓って。


「ねぇ、どこいく?」

「まずは、マンション壁の外に行かないとな」

「どうやって?」

「あ...」

『「リーダーっ!」』

そんなこんなで、たどり着いた首都からはなれた小さな町のテント街の一角。成長盛りの男5人が共同生活するにはあまりにも狭いスペースで二ヶ月ほど過ごしていた。

とは言っても、ここまで来るのに2年近く彷徨ってきた訳だが。

「昨日何食べたっけ?」

「缶パン」

「一昨日は?」

「めっちゃ硬い卵パン」

「今日は?」

「缶パン」

「明日は?」

「わからん」

そうして5人で転々としながら生活してきた僕たち。家はなくとも、最低限の生活が送れるようにはなっている。

ここら一体の公園のトイレは綺麗で、公共浴場はタダで使えて、食事も満足とまではいかないがないわけでもない。

雨が凌げる場所もあれば、5人で働いて借りているちょっとした倉庫もある。

この世界は非常に不安定だったそうだ。人種の違い、文化の違い、信仰対象の違い、思想の違いですぐに争いが起きたとか。

この星は三つの大陸がある。度重なる天災で沈んだり、くっついたりしてなわやかんや三つ減ったとか。

そしてもう一つ。ここ100年で大きな変化があったらしい。

それは人類の進化だ。

ここ100年で、人口は100分の1にまで減った。

一部は宇宙へと逃げる選択をしたが、それっきり帰ってきた形跡もなければ通信もない。

というより、通信自体がこの世界からはほとんど消えたようなものだ。

が、この星に残った数千万の人が必死に生き延びようとした結果、人類には新しい力に目覚めた。

「じゃ、いつものよろしく」

「これやると体力持ってかれるんだよなぁ」

そう言いながらも、悠はコップに入った水を温める。

「便利だよね..その能力」

「まぁ、自分も熱くなるから高い温度にはできないんだけどな」

「この寒い時期に冷水よりは100倍マシだよぉ。僕なんて、どこでもかき氷を作り出すって能力だよ?」

「そういやそうだったな...去年、夏来てなかったから忘れてたわ」

「おぉ?ゆーちゃんのお湯、氷入りにしてやろか?」

「やめい」といって一気に飲み干す悠ちゃん。

こんなことでも、笑っていられる関係が暖かくってしかたない。

「なぁ〜噂話なんだっけどさ」

「どしたん?」

「この国の第一王女いるだろ?」

「まぁ、国っていうのも名ばかりな気もするけど」

「そうだけども」

最年長のリーダーと、僕より一つ上のすーちゃんがそんな会話をしていた。

「で?」

「誘拐されたんだと」

「それやばくね?」

「でもさでもさ!この国の第一王女様って、自由信奉の人じゃなかったっけ?」

そんな会話にクーくんが身を乗り出して参加する。

「そこなんよ」

この国には王と法による安泰を望む再国家化主義と、自由を信条とする自由信奉、或いは理想主義。

その二つが小競り合いを続けているのが現状だ。団という組織の三つ巴とも聞いた事あるけど、そんなの見たこともない。

「でもさ、王女と自由ってもう対義語じゃん?」

「そうなぁ」

ここで問題なのがどちらの正義も否定しきれないのである。

数百年前の国家体型に戻すことができれば少なくとも表面上は平和な時代が戻ってくる。

理想主義の最終目標は狩猟時代まで遡ってでも、自由と自然を掴み取ることこそ人間の本来あるべき姿であると唱えているのだ。

この噂になっている王女を誘拐したのが理想主義の人間だったとすると、いつ戦火の日が上がってもおかしくない訳だが…

「えぇ〜逃げるの?」

長い髪が特徴のフーくんがちょっと不安そうに周りを見てた。

「まぁ、ばあちゃんだったらすぐに動けって言いそうだけど…取り敢えず、明日の朝にでも出発しよっか」

リーダーの発言に一同頷く。

「さぁ、飯かきこんで寝るぞ!」

その夜は少したげ、隙間風が痛かった。


翌朝になって、昨日の選択を後悔することとなる。

「おい!おい起きろって」

「んん?おはよう〜」

「それどこじゃないんだよ!周りに..周りに人が一人もいないんだよ!」

一足先に起きたのであろうクーちゃんが息を切らして言っていた。

「とりあえず、持てるもの持ってここからすぐに逃げるぞ」

「じゃあ、みんなは身支度済ませてて!僕が荷物まとめちゃうから」

僕がそういうと、お互いを起こし合って各々軽食を口に詰め作業し始めた。

最初は眠そうなゆーちゃんもすぐ指示を出して動き出してくれたおかげか、ものの5分もかからず一通りはまとまった。

「さっすがリーダー」

「…年長者ってだけだよ」

「頼りになる〜」

「で、どこに逃げる?」

「あ…」

「とりあえず、ここは戦場になるかもしれないんだろ?」

「だな」

「王国内は入れないし」

「自由主義に混ざる気もないし」

「帰るとこもな〜い」

「とりあえず、国境沿いを進んで行こうか」

「というと?」

「前に話してた、無人島計画を実行するときなのかもって思ってさ」

『「確かに!」』

満場一致で、国境沿いを進んだ。

外に向く窓のないマンション群が成すその壁はとても無機質で少し悍ましい…

ただひたすらに歩き続けること数時間。

一際めだつ廃墟群が目の前に現れた。

「あの、廃墟群抜けた先が海だと思う」

「おおぉー」

ここから遠くの方に目を細めて見ると、少し輝く何かが見えた。

「ねえ、あの奥で輝くのがそう?」

「にしても、しょーちゃんは目がいいなぁ」

「見えないの?」

「一面瓦礫しかないからなぁ」

「まぁ、多分そうじゃない?」 

リーダーが地図と方位磁石を照らし合わせて、指で上からなぞった先に海が確かに書いてある。

「じゃあ、誰が最初につくか勝負しよ!」

「そんなの、しょうちゃんが勝つに決まってんじゃん〜」

「いやいや、じゃあ、5分経ったらこの荷物持ってくからさ」

「いいぜ。やろうじゃん」

「負けたら、今日の飯担当な」

「やだなぁ」

1...2...3......

っ!少し肌寒い…気がする。

あれ?今何秒経った!?

.........179...180.......299...300

よし。多分5分経ったな。

「行くよぉ!」

大声をだして、思いっきり走り出す。

瓦礫の山を飛び越え、潜り込んで、草木を分けて、また瓦礫の山に突っ込んで...

すると、目の前数十メートル先に大きな廃ビルが見えた。

「登るか、周るか...入るか」

…誰が1番楽かなぁ

その時、目の前に真っ赤な光が横切る。

突如聞こえる、叫び声。

何処からともなく現れた軍服を着た大人が数名。

...?何が起こっているんだ?今の叫び声はなんだ?

ふと我に帰ると体が軽くなり、感じたことのないほどの力と、止まらない冷や汗。

荷物を投げ捨て、なりふり構わず突っ込んだ。

すると目の前には下半身が焼失したような、すーちゃんとフーくんが

… あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!

クーちゃんと、リーダー…

「逃げろしょうちゃん!!」

「クーちゃんっ?!」

その叫び声は虚しくも、届く間もなくかき消された。

いまだに飛び交う赤い光線。

どうすればいい?リーダーと合流?逃げる?

...逃げて何が残る?せめて...せめて敵討ちを...1人でも...リーダーは上手く躱せるはずだし..でも


考えていると、誰がが僕の首根っこを掴んだ。

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