第32話

 いずれにしても、ぼくとオンナは血まみれの濡れ場をあとにした。


 ぼくが格下の2等操縦士であることを知ったらあの1等操縦士は復讐に燃えるだろう。コケにされただけでなく、目にかけた若いオンナまで奪われたのだ。


 やがて銀河政府はぼくの処分を認める。ぼくに破格の懸賞金をかける。捕まったらどんな残酷な殺されかたをされるかしれない。しかしそれがあの1等操縦士であれば、すくなくともオンナは無事だろう。性は強要されるだろうが、いのちをとりはしないだろう。


 一歩いっぽ寂びれた炭坑のように赤茶ける渇いた砂上をぼくはあるく。


 オンナの寝息が聞こえてくる。首すじには涎がたれてくる。


 じぶんがたいへんなことをしでかしてしまったという認識をぼくはまだ欠いている。しかしやがて、ぼくははじめてぼくを見つけ、ぼくはたしかに生きていたのだという重いたしかな実感を背負ってあるきはじめる。不安と期待が相半ばする充足感で満ちてくる。不思議な光景だ。ぼくがぼくを背負ってあるくぼくのすがたを、遥か遠く惑星から鳥瞰するぼくがいるのだ。

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