第30話
男は両手で乳房をもみしだく。オンナは髪をかきあげる。
その瞬間、ぼくはオンナと目があった。
それはぼくのよく知る瞳だった。
すべてを疑りすべてに倦んだ瞳の色。艶がなくて深みがない。そう、あれはぼく。ぼく自身の瞳だった。
理不尽。公人たちへの怒り。不甲斐なさ。凡人たちへの憤り。長年それらが醗酵して黒く臭う腐敗液となった。宇宙は途方なく広いはずなのに、ぐんぐんみるみる閉塞してゆく世界。かなしさや寂しさ。ずっとわすれようと努めてきたわすれていたぼく自身だった。
ぼくはペニスを咥えるオバサンを押しのける。オバサンがおどろくがかまわない。そのまま立ちあがる。
腕をしならせ、光悦にひたる男をちからいっぱいにぶん殴る。オンナを除けて、仰け反り倒れる男の頬をなおも拳で殴りつける。骨が疼くがやめるわけにはいかない。絹の敷布も血まみれだ。
男は白目を剥いて痙攣する。惨めに痩せこけた猿のような男だ。ぼくはひたすら乱打する。殺すのではないかと思っておそれを擁いたのか、さっきのオバサンが興奮さめやらぬようすでぼくの肩をたたく。壁を指さす。シャツがかけてある。胸には徽章。青い星。1等操縦士だ。
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