第11話
宇宙の歴史を知ると、じぶんの視野と考えがひろがるとマリーは言う。歴史の積み重ねとしていまここにある必然のじぶんにおのずと愛着が湧いてくると言うのだ。
それなのに、マリーは誇りのために死のうとする。あきらかに矛盾している。まちがっている。しかしそれをぼくにどうできよう。
マリーはマリーという存在のうちに矛盾をかかえこんでいる。矛盾はもうひとつの心臓のように強く鼓動をうっている。いや、矛盾こそが心臓なのかもしれない。
マリーは苦しんでいる。矛盾にさいなむ心臓が、その体をのっとって、内側から喰い破ろうとするかのようだ。血をふき崩れて足掻いてもがくサバンナのインパラのように、マリーはしだいに赤く血にそまる骨だけになってゆく。敵のすがたは見えない。肉を喰らう獣が見えない。ぼくはただ手をこまねいて阿呆のようにおろおろ歩きまるしかない。ながめるしかできない。
生きるとはそういうことだ。想うと胸がしめつけられるように疼いて痛む。ぼくにできるのは見えない敵ではなくて目前の敵を蹴散らすことだけなのだ。
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