第8話

 ともかく1年にいちどの休息をのぞいて、ぼくは操縦士連中みながそろって嫌がる仕事をたんたんと日日こなしてきた。ウラシマ効果をおそれないし、高速度での走行時の質量膨大の激痛にも気後れしない。これではまるで愚鈍なロボットだ。あたまでっかちの公人たちに重用されるわけだ。ぼくほど御しやすく思われている凡人もほかにあるまい。


 ぼくはたしかにあたまのてっぺんからつまさきまで徹頭徹尾つきなみで退屈な凡人だ。公人に飼い馴らされたアクビがでるほど凡庸な犬だ。恥を恥とも思わない愚かしい犬だ。しかしいったいだれにぼくたちを責められる。誇りのために死ぬことが生きることの意味なのか。死んで誇りを回復すれば生きたことになるのか。ぼくにはそうは思えない。ぼくは生きる。唾され嗤われ蔑まれようが、ぼくは公人の傘を利用する。生き延びる。友人なんていない。みんな去っていった。誇りとは、よほどたいせつなモノとみえる。

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