誰ガ為ニ彼ハ生キル

紅 零

第1話 今日も無意味に生きる

連日、夜に近づいても蒸し暑い日が続く。ジットリと肌に張り付くような空気を振り払うように頭を振り、タバコを吸う。

「あちぃ……」

一言悪態をつき、夕暮れを背に火を消す。

今日もこれから仕事が始まる。

誰のためでもない、ただ自分が生きるための。




暗く、人気のない裏路地を一人の男が歩いている。かなり鍛えているのか、服の上からでも膨れた筋肉がわかる。

そんな彼の前に、ふらりと人影が現れる。

「おい、邪魔だよ」

路地は狭く、二人がすれ違うには横向きにならなければいけない。しかし、影はピクリとも動かない。

「聞こえてんのか?おい」

声を荒げ、苛立ちを隠せない男は影の肩を掴もうと手をのばす。

しかし、男の手は影に触れる事はなかった。

赤。

月明かりに反射するのはどす黒い赤だった。

男が状況を理解するのにコンマ数秒。その間に影は男の間合いから離れていた。

切り落とした腕を持って。

「がぁぁぁっ!?痛ぇ!?」

遅れてやって来た激痛に蹲る男。それを無感情に見下ろす影。

影は口を開き告げる。

「この街でお前がしている違法な薬物の取引、その他諸々の犯罪行為は調べがついている。よって、我々はお前を処分することにした」

「っな!?どこから情報が!?」

腕を押さえたまま逃げようと退路を確認する男。しかし、その一瞬。視線を外したのが間違いだった。

首筋にナイフを突き付けられ、硬直した男に影は告げる。

「裏公安、第一課の権限を以てお前を処分する」

「や、やめーー!」

闇に光る緋色を最期に、男の意識は消失した。









茹だるような暑さの中、大学構内を歩く。背負ったリュックに覆われた所に熱気がこもり、汗が吹き出る。

「なんでこんなクソあちぃのに大学来なきゃなんないんだろうな」

隣を歩く友人がぼやく。

「サークルのライブも近いんだししょうがないだろ。近場に借りれるスタジオなんか無いし」

少しでも日光を遮る為にフードを目深に被りつつ答える。

「早く部室行こうぜ、冷房効いてるし」

「そうだな。この日差しはキツくて敵わん」

気持ち足取りを早め、俺達は部室へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る