第14話
(※ナタリー視点)
先月の売り上げは、先々月とあまり変わらなかった。
利益も同様に、あまり変わらなかった。
しかし、今月は、売り上げが少し下がっている。
でも、こんなの微々たるものだ。
誤差の範囲に過ぎない。
しかし、利益は明らかに少なくなっている。
とはいっても、まだ桁が変わるほどではない。
つまり、誤差の範囲内といってもいいくらいだ。
こんなことをいちいち気にしていたら、経営なんてできない。
商売なんだから、波があるのは当然よ。
そうよ、こんなの、たまたまよ。
さっきは少しセンチメンタルな気持ちになっていたけど、悪い方に考えるのは良くないわ。
こんなのは、経営者がお姉さまから私に変わったせいじゃない。
たまたま時期が悪いだけよ。
絶対に私のせいなんかじゃない。
まだ始まったばかりなんだから、いつまでも小さな事でくよくよしていても仕方がないわ。
こんなの、無視するのが一番よ。
後ろ向きなことばかり考えるなんて、私らしくなかった。
こういう時は、気分転換が必要だわ。
お母様とお買い物をする約束をしたし、そこでストレス発散にぱあっと使おうかしら……。
*
私は、兵の動きに集中していた。
彼が剣を振りかぶった瞬間、突進するつもりだった。
しかし、彼は剣を振りかぶらず、そのままゆっくりと剣の先を殿下の肩に近づけた。
そしてすぐに、肩から剣を離した。
……えっと、何をしているの?
「危なかったですねぇ。こいつがお嬢さんの肩についていましたよ」
さっきまで険しい表情だった兵は、笑顔になっていた。
彼が持っている剣の先を見ると、何かが動いていた。
えっと……、これは……、クモ?
「このクモはですね、この辺りに生息していて、毒を持っているんですよ。まあ、命を失うほど危険なものではありませんが、刺された箇所がしばらくは痺れるのです」
「ありがとうございます。助かりました」
殿下は兵にお礼を言った。
「それでは、お気をつけて」
私たちは兵に笑顔で見送られ、今度こそ出発した。
「さっきはびっくりしましたね。兵の方が剣を抜いた時は焦りましたよ。エミリーさん、よく冷静でいられましたね」
「ああ、それはね、彼の剣からは殺気を感じなかったからよ」
「へえ、そうなんですか……」
殺気の有無なんて、私にはよくわからない。
でも、殿下はそれを感じ取れるようだから、もしかしたら、剣術か何かやっていたのかもしれない。
とにかく、何事もなくて本当によかった。
馬車を止められてからはずっと、心臓が張り裂けそうな気分だった。
どうやらこのまま無事に、次の町へ着けそうである。
でも、このあと私たちは、その町でとんでもない目に遭うのだった……。
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