転生したけど魔法が使えません

真堂 美木 (しんどう みき)

光りを持たないテラ

第1話 家紋はあるのだけど

 新緑の葉が優しい風に揺らされてテラは、目を閉じ耳を澄ました。

 葉の擦れ合う音が自然のささやき声のように聞こえた。

 再び目を開けると、暖かな陽の光が木々の葉や色とりどりの花たち、そこにある全てをキラキラと輝かせている。

 「しあわせ~」と、テラは、その年齢にそぐわない言葉を発した。

 「まあ、お嬢様ったら」と、傍らにいるまだ年若い侍女が笑顔を向けた。

 小さなレディであるテラは中庭で侍女と花冠を作っている最中だった。赤や黄色、ピンクに白と気にいった花をそっと優しくちぎっては束ねながら輪っかにしつらえていく。

 その愛娘の様子を館の中から見つめていたキリア伯爵が溜息混じりに隣に立つ夫人に言った。

 「まだ、テラの額の家紋は光を放たないのだな」

 「申し訳ありません。私のせいですわ。」

 「いや、シェリー。母親だからといって君が謝ることは無い。君を責めているのでは無いのだから。ただ、あの子のこれからが少し心配でね」

 「でも、私があの子に光を与えることができていたなら…」と、話しながら夫人は再び庭のテラに目をやった。テラは透き通るような白い肌に大きな瞳の女の子で時折優しく吹く風が、その金色の髪をなびかせていた。

 「いや、僕が生まれるときに母上から全て貰ってしまったのかも。僕のせいかもしれません」と、背後から夫人の言葉を遮ったのは長男であるシリウスだった。シリウスの額の家紋からは黄金の光が放たれ、髪でほどほどに隠されていても充分に輝いているのがみてとれる。

 額の家紋は生まれた時から刻まれており、そのヒイラギの葉のような形はキリア伯爵の血筋であることの証である。

 そして、放たれる光は、その色と強さで魔法力の強さを表す。光は強いほど、色は透明に近いほどに魔法力はより強力なものとされている。

 テラの兄であるシリウスの光は、帝国の中でも飛びぬけており、魔法力の強さはこの国最強である皇太子と並ぶとも称されていた。

 テラの額にも勿論のこと同じ家紋があるのでキリア伯爵の娘であることに間違いない。

 だが、出生当初から放たれるべき光がなかった。すなわちテラは魔法の国の正当な伯爵令嬢であるにも関わらず魔法力の一切ない、魔法が使えない異質者だった。

 成長していけば光が出現するのではないかと周囲の者たちは期待した。

 だが、七歳となった今も額の家紋に光が宿ることはなかった。

 「いいじゃあないですか。僕がずっとテラを守っていきますから。テラは僕の大切な天使ですから」

 満面の笑みで話すシリウスを見て夫妻は顔を見合わせ苦笑した。

 「ああ、それは頼もしいが少しばかり度が過ぎてはいないか。妹を大切に思ってくれるのは良いことだが何というか、」と、言いよどんだキリア伯爵の言葉を繋ぐようにシェリー夫人が言い放った。

 「シリウスはシスコン過ぎるのよ」

 キリア邸は、優しい陽光に包まれていた。

 


 

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