ファイル

@isa00

ファイル

 「なぁ、佐藤。ファイルと栞の共通点って何か分かるか?」


 平田は時々、意味の分からないことを言う。話の流れや状況をことごとく無視し話を展開させていく癖は受け手もついていくことが困難だ。またいつものが始まったよと、佐藤は気が重くなった。


 「……分かんね」


 「俺は気付いちゃったんだよ、共通点。ノーベル国語賞、取れる気がする」


 「ノーベル国語賞なんてものはないし、海外の賞なんだから俺たちにとって日本語は国語だけど、他からしたら、外国語だろうよ」


 「まぁ、佐藤。そんな難しいことは気にせんで、とにかく話を聞いてくれよ」


 平田は内緒話をするかのように身を縮こませ、佐藤にも同じようにしろと目で訴えかけてくる。佐藤はまたいつものことだと耳を傾ける。


 「佐藤もファイルを使うだろ?どういうときに使うか?」


 「んー、配られたプリントを挟むときだな」


 「ふんふん。あとは?」


 「あとは……プリントがくしゃくしゃにならないように保存するかな」


 「だよな?」


 「で、共通点は? 次のテストの勉強しなきゃ」


 「落ち着け落ち着け。俺もやってないから大丈夫だ」


 佐藤には何が大丈夫なのか分からなかった。平田と佐藤、テストの点数はいつも最下位を争っている。授業は寝ずに提出物も毎回提出しているのにも関わらず、だ。


 「栞も本という物に挟むだろ? さっきまで読んでいたページに挟んで話の途中で話の流れを保存するだろ? 挟むと保存するって共通してるじゃん」


 「なるほどな。じゃあファイルも栞も様々なデザインがあるし、学生が良く使うってところも共通しないか?」


 平田は目をひん剥いて驚いている。佐藤は平田の一々大げさなリアクションに暑苦しさを覚える。


 「やっぱり俺たち、ノーベル賞取れるって! 天才じゃん、勉強なんかもういいよ! 世界に名を轟かせようじゃありませんか、佐藤さん!」


 「でもな、平田。俺たちの現状とファイル、栞の共通点もあるんだぜ?」


 「なんだい、それは?」


 佐藤は一呼吸おいて、こう言った。


 「失くしたら終わりってこと。ファイルを失くしたらテストが大変、栞を失くしたら読んでいるページが分からなくなる。そして俺たちは勉強する意欲を失くしたら、赤点だ……」


 「……ちょっと何言ってるか分からないな……」


 佐藤は恥ずかしさもあり、ファイルからテスト範囲のプリントを取り出し、勉強をし始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ファイル @isa00

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ