12-2
「お前たち、部活覗いてたな?」
「バレてたみたいだよ。やっぱり、さくらさんの可愛いオーラは隠しきれないんだね」
「レオくんが格好良いからでしょ?」
「ちょっと、下手な誤魔化しなんていらないんだけど」
何の変哲もない、日常の一コマ。
大切な話は、保留のまま。今は、かけがえのない一分一秒を大事にしている。
答えを出すのは、数日後の卒業式の日。現三年生の、晴れ舞台の日。どの答えになろうとも、その日に必ず結論を出すと決めた。
――私が一生留年するか、卒業するかを決める大事な決断。それには、卒業式が相応しいと思ったからだ。
だからそれまでは、触れない。今は、今を精一杯楽しむんだ。
「だって、リュウが来月の発表舞台で主役に選ばれたって言うから。これは、練習を覗きに行かなきゃって。ね、さくらさん」
「そうそう」
「そうそう、じゃない。本番ならともかく、練習なんか見られたくない」
「そう言うと思ったから、こっそり見に行ったんじゃない」
「何がこっそりだ。バレバレだっての」
腕を組んで、斜に構えるリュウ。膨れているが、本気で怒っていないことはわかっている。
「他の人には、気付かれていなかったと思うな。リュウだけだよ、気付いたのは」
「それだけリュウが、俺たちのこと好きだってことだよね」
レオくんと二人で目を見合わせ、揃って美少年の顔を見やる。驚きの顔が、すぐさま照れ隠しに目を逸らした。
「何言ってんだ。この、自意識過剰カップル」
「まあまあ、そう言わずに。演技しているリュウ、格好良かったよ。すっごく引き込まれた」
「ね。さすが、演劇部のエース」
「……おだてたって、何も出ないぞ」
半眼を向けるリュウだったけれど、頬が緩んでいた。
私とレオくんは、また互いに目を見合わせて、そうして笑った。
楽しい。
こんな日常が、ずっと続けば良いと思ってしまった。
意味がなくとも、何も生まなくとも、残らなくとも、忘れ去られていく出来事だとしても、それでもかけがえのないことに違いはなかった。
大切で、大事で、愛しい日常。
感傷に浸るのは、一人の時でいい。
振り返るのは、今度でいい。
時間は有限だ。
そのことを、今の私は嫌というほど知っている。
だから、私は笑う。
偽ることなく心に従って、笑って、怒って、泣く。
そんな当たり前のことが、やっとできるようになった。そう思う。
こうしていると、何も難しいことなんてない。だけど、難しかった。ずっと、できなかった。
胸の奥にしまうのが板についた、悪い癖。
発することを教えてくれたのは、二人。
変わりたいと願った小さな心を引き出してくれた彼らに、私は誓う。
絶対、幸せになる。一緒に、幸せになろうね。
今度こそ、見失わない。離さない。
ありふれた日々が、当たり前じゃない幸せだった。
だから逃げない。歩き出すんだ。
嫌なことが起こらない日々――それは、幸せじゃない。
どんなことがあっても、立ち向かっていける。そんな強さがあること。悩みながら、傷つきながら、苦しみながらも顔を上げていられる。
それが幸せだって、わかったから。
だから、大丈夫。
永遠はないけれど、奇跡は起こせる。
だって私は、私たちは、一人じゃない。一緒なら、前を向けるよ。
足し算じゃない。掛け算で、大きくなれるから。私たちの想いを、信じよう。
夢を見たって良いじゃない。だって、未来は無限大だから。
作り出すのは、私たちだから。
「とにかく、もう来るなよ」
「えー? どうする? レオくん」
「ここは、とりあえず頷いておこうよ」
「そうだね」
「おい、聞こえてるぞ」
「いけない。さくらさん、逃げよう」
「あ、こら! 逃げるな!」
駆け出すレオくんに誘われるまま、リュウに背を向ける。
追いかけてくる彼から逃げる私たちは、顔を見合わせて笑った。
どうか、ここに私がいなくても、笑っていてね。
二人なら、大丈夫だって信じているから。
離れていても、笑っていてね。
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