脣星落落之譚

柿本 修一

第1章 日常。

息白く染まる冬の朝。

今年の冬は例年になく厳しいものになると聞き及んで久しい。

全くそんな気配はないと油断した男は、昨日の晩に薄着で床に就いてしまった。


山間集落のこのあたりでは、朝方の冷え込みは常軌を逸する。

特に密閉されてない古民家に住む男にとって、これがどれほど身に染みるものか。


「はぁ……。寒い……」


男の吐息は、電灯に照らされ白く輝く。


「今何時だよ……」


こんな日は、ストーブで部屋が温まるのを待ちながら二度寝するのが至高の贅沢であるが……

枕もとのスマホの待ち受け画面は、12月15日 AM6:05を示す。


「いけねぇ、やっちまった」


どうやら寝過ごしたらしい。

予定では始発の6:30に出発するバスに乗ることになっている。これを逃すと次は1時間後という始末だ。


「まずい、このままでは電車にも乗り遅れちまう――」

男は大慌てで身支度を整えた。

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