第10話 成績別最下位クラス

 桜園学院高等学校は成績別クラス分け制度を採用している。

 理系と文系のクラスがそれぞれあり、成績最上位の生徒たちはアルファ1と呼ばれるクラスで学ぶ。

 以下、アルファ2、3、ベータ1、2、3、ガンマ1、2とつづく。

 最下位クラスはガンマ3である。

 補欠合格をした高瀬みらいは理系も文系もガンマ3に配属された。

 スポーツ入学をした阿川悟も同じだった。

 彼はまったく勉強をするつもりがない。授業中、同じくスポーツ入学をした野球部の生徒とずっとしゃべっている。かなりうるさいが、ほとんどの教師が注意をしない。ガンマ3などどうでもいいと思っている教師ばかりなのだった。

 唯一、数学教師の小川だけが注意をした。

「おい、阿川、勉強しなくてもいいが、おしゃべりはするな。癇に障る」

「おがせん、おれは桜園学院を甲子園に連れていくエースだぜ。教師の命令なんか聞かねえよ」

「永遠に1年生のままでいいのか?」

「は?」

「おれはおまえの担任の教師だ。おれがその気になれば、おまえを留年させることができる。次の担任にもおまえを留年させるように頼む。その次の担任にもな。おれは執念深い男だ。おしゃべりするなら、おれを敵に回す覚悟を持ってやれ。その覚悟がなければ、数学の時間だけはおとなしくしていろ」

「てめえ、それでも教師か?」

「教師だとも。教師はふたつに分類できる。敵に回しても怖くない教師と敵に回すと怖い教師だ。おれはどっちだと思う?」

 阿川は沈黙し、数学の時間だけはおとなしくしているようになった。

 さて、みらいは次の定期試験後にガンマ2に昇級することをめざして、勉学に励んでいたのだろうか。

 そんなことはまったくなかった。

 特に興味の持てない数学の時間は、全力で授業を無視し、小説を書いていた。

「おい、高瀬、黒板を見ろ」

「はい」と答えたが、みらいはノートを見て、自作のSF小説を書きつづけていた。人類が滅亡した後、アンドロイドたちが社会を運営している物語で、タイトルは『人形の星』だった。

「高瀬、おまえは真面目な生徒だと思っていたんだが、そうじゃなかったのか?」

「もちろん真面目な生徒です」

 みらいは小説を書きつづけていた。うまく書けているという実感があり、夢中になって書いていた。

「高瀬、数学など社会に出たら役に立たないとか思っていないか?」

「思っていません」

 おがせんうるさいなあ……と思っていた。

「数学は役に立つ。論理的思考を養わないと、よい小説は書けないぞ?」

 みらいは顔を上げた。

「え?」

「おまえは小説を書くらしいな。文芸部に興味はないのか? おれは文芸部の顧問でもあるんだぞ」

「文芸部に入るか入らないか迷っています……。興味はあります。でも、小川先生は楽だから文芸部の顧問をやっていると言っていましたよね。文学にはまったく興味はないって。どうしていま文芸部の話をするのですか?」

「気に入らない生徒は文芸部には入れないぞ」

「えっ? そんな権限が顧問の先生にあるのですか?」

「あるとも」

 実際にはない。そんなことをしたら、教育委員会が黙ってはいない。しかし、みらいは信じた。彼女は純朴な少女だった。

 小説を書くのをやめ、黒板を見た。

 小川はニカッと笑った。そして授業をつづけた。

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