第51話 委員会発足
「……というわけで、ボードゲームで盛り上がるわよ! もちろん全員参加ね!」
水の曜日になり、全員が談話室へ集まったところで委員会の内容を説明した。
なぜか説明役は私に任された。
「ライラ様! 俺、めちゃくちゃ嬉しいです! もう一度やりたかった。もう一度あの時間を味わいたかった。この皆さんでできるんですね! 嬉しくて泣きそうです」
リック、そんなに楽しんでくれていたのね。
様付けしているのはもう、スルーしよう。
「私も、わくわくしてきました! ぜひ参加させてください」
うんうん、メルルならそう言ってくれると思ったわ。
「いまいち、ピンと来ないけどなー」
「そう、残念ね。ジェラルドは不参加……と」
「参加するよ! ライラちゃん、地味に僕をいじめるよね。もしかして僕が好きなの!? 好きな子はいじめるタイプなの!?」
「冗談よ、前向きで羨ましいわ。セオドアも参加ね」
「ああ、楽しそうだ」
よし、あとは曜日を決めるだけね。
「部のオリエンテーションが始まったけれど、無理な曜日はある?」
「あー、俺は剣舞部に入る予定で、月と木と土の曜日が無理で……」
剣舞部に入るのはゲームで知っていたけれど……結構練習するのね。
うーん、ゲーム内では曜日までは書いていなかった気がするからなぁ。リックルートは一度しか見ていないし、記憶が薄いのよね。
「了解。他には?」
「あ、私は文芸部の予定で、オリエンテーションにはまだ参加していないんですけど、木の曜日だけ無理です」
「――ぇえええええ!?」
「ほぇあぇぇ!?」
……しまった。ゲーム内でメルルは部に入っていなかったから、驚きすぎてしまったわ。
メルルにも申し訳なかったわね……。
やっぱり、ゲームとは違ってくるのね。
「ご、ごめん、なんでもない。了解よ」
「え、なんですか。気になりますー!」
「……一瞬ちょっと聞き間違えて、脳内で修正したからスルーしてちょうだい」
「えー、ライラちゃん、何と聞き間違えたのー? そんなに驚いたってことは、やっぱりやらし……痛ぁ!」
「黙れ、兄上」
お、またセオドアの右手のチョップが、ジェラルドに入ったわね。
だんだんと恒例になってきた気がする。
でも……少しやりにくそうね。
席が遠くなった。
入口から遠い横長ソファには相変わらず私とヨハンが座っているけれど、真向かいの横長ソファにはセオドアとメルルが座るようになった。
二人の仲が近づいているのを見抜いて、ジェラルドが奥の一人掛けソファに座るようになったからだ。
そういうところは、ちゃんと見ているのよね。
「ライラ、なんであんなことを言っているジェラルドに、そんな穏やかな顔を向けられるんだ……」
「子供っぽい茶々に、可愛らしいわねと思っただけよ」
「ライラちゃんは僕にだけなんで、そんなに上から目線なのさ」
「さぁ。気のせいか実際に上なのか、どちらかしらね」
「ぶーぶー! 僕だって、いいご身分なんだからねー」
そりゃ、第一王子だものね。
わざと変な言い回しをして、楽しそうで何よりだわ。
卒業して会うとしたら、ヨハンの妻という立場でしか、きっとない。公的に「ジェラルド王太子殿下と共に過ごせることを、喜ばしく思いますわ」とか適当に言って、優雅に微笑むだけのやり取りになる。
今だけの、期間限定の関係だ。
「じゃ、金の曜日の講義終了後にしましょうか。土の曜日の前日だから課題の締切に追われることもないし、気も楽だもの。日の曜日は隔週ね。午前にするか午後にするかは、毎回金の曜日に決めましょう。剣舞部での活動準備なんかで無理な時は言ってちょうだい。ヨハンが研究棟の最上階の客間の一室を借りられるように手配してくれたから、メンバーの名前を書いて提出して承認をもらって、来週の金の曜日から活動開始ね」
「はーい!」
こういう時の返事は、絶対にジェラルドとリックとメルルよね。
ヨハンは軽く「ああ」と言って、セオドアは微笑みながら頷くのが常だ。
いつもの会話、いつもの行動、そんなものがお互い分かるようになってきた。
日常の些細な出来事の中で、誰々ならこうやって言うだろうなと想像して笑ってしまう時がある。
ああ、学生!
これぞ、学生!
最高ね、学生!
「なにやら浸っているところ悪いけどさ、なんで研究棟の最上階の客間なのさ。僕たち生徒だよね。ヨハネスのごり押し?」
「そんなわけがないでしょう。委員会の最終目的は販売と流通だし、防音を重視したんじゃないかしら? 音楽室を借りるわけにもいかないし。研究棟の客間ってことは、外部から著名な研究者を呼んでのやり取りもするでしょうし、音は漏れにくいと思うわよ。それに、ゲームをすると私たち自身の声も大きくなるしね。と、私は思ったんだけど……違う?」
「いいや、ライラの言う通りだ。概ねその通りだよ」
「なるほどねー」
……たぶん、違うと思うけどね。
ヨハンにあまり他の王族の前で嘘はつかせたくないし適当に言っておいたけど、よかったかな。
さすがに王子三人が勢揃い。
昼間の護衛は禁止されてはいるものの、委員会の時間だけはカムラの護衛を認めてくれたのかもしれない。
申請さえ出せば、ローラントのように外部の人間も入れてしまえるものね……。
研究棟の最上階なら、ほとんど人はいない。他の生徒にも護衛は気付かれにくい。待機場所は隣の部屋なのか天井裏なのかは分からないけれど、どこかに潜む気がする。
この学園でなら護衛をせずにゆっくり休む時間もあるのかなと思ったけれど、カムラにとっては報告なしの自由時間は不安みたいだし、そうだったらいいなと思う。
そっと握り合っている手に少しだけ力を入れて、ヨハンを見上げた。
……そういうこと、よね? さっきの言い方でよかった?
ヨハンが気づいて柔らかく微笑んでくれて、ほっとする。
やっぱり……、きっとそうなのよね。
誰が聞いているとも限らないし、ルール破りみたいなことをハッキリとはさせたくなくて今まで確認はしていないけれど、おそらくそうだ。
カムラが苛立っているのを知っていたヨハンが、あえてそうしたのかな。私が日常の出来事を教えてあげてとお願いしたのも……あるのかもしれないわね。
彼の顔を見て、なんとなくそう思った。
――来週が楽しみね。
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