第133話 緊急事態
選挙活動を始めてから数週間。もうすぐ投票の日が迫ってくる中、俺は玲桜奈さんのアドバイス通り、あまりウザがられない程度に演説やビラ配りを行って過ごしている。
一方の天条院だが、毎日のように演説を行い、お付きの連中と一緒にビラ配りに勤しんでいるようだ。
さすがに頻度が多すぎるのか、否定的な意見が俺の耳にも届いてくるが、そんなのはお構いなしなのは、ある意味天条院らしい。
それと、玲桜奈さんに厳重注意してもらったおかげか、あれ以来妨害行為はしてきていない。
「陽翔さん、ぼんやりしてどうしたんですか?」
「いや、なんでもないよ」
俺の隣で体育座りをしていたゆいは、俺の事を心配そうに見つめながら問いかけてきた。体勢が体勢だからか、そのはち切れんばかりのおっぱいが、足に押し当てられて形を変えている。すごい光景だ。
ちなみに今は授業中で、クラス合同の体育の真っ最中だ。今日は体育館でバレーボールをしている。
「ソフィアちゃん、楽しそうですね……ゆいは運動が苦手だから、羨ましいです」
「確かに楽しそうだな」
コートの外で見学中の俺とゆいは、プレイ中のソフィアを見ながら口を開いた。
ソフィアはあまり上手ではないが、積極的にボールを取りに行ったり、アタックを仕掛けにいっていて、とても楽しそうだ。
あと、これは余談だが……動き回るから、ソフィアのおっぱいの揺れがとんでもない。あんなに揺れて痛くないのだろうか?
まあ体育に限らず、ヒロイン三人はめっちゃデカいから、少し動いただけでも結構揺れる。現実世界だったら絶対にあり得ないだろう……さすがギャルゲー世界。
「ふーっ! なんとか勝てたよー!」
「お疲れ様」
「ソフィアちゃん、はい……タオル使って」
「ありがとっ! う〜んフカフカ〜……ハル、アタシの勇姿、見ててくれた?」
「ああ、見てたよ。頑張ってたな」
「わーい褒められたー!」
いつものように、ソフィアとゆいと会話をしていると、唐突に天条院が鼻を鳴らしながらやってきた。
そういえば、こいつのクラスも合同だったな……関わりたくもないから、すっかり忘れてた。
「ふん、生徒会長と交際しておきながら、他の女と仲良く会話とは、良いご身分ですこと。そんな男には、やはり生徒会の一席は任せられませんわ」
「とことん暇だなお前。わざわざ授業中にそれを言いに来たのかよ」
あくまで相手にしないでいると、天条院は歯軋りをしながら、俺を睨みつけてきた。
こいつのペースに乗せられると、いつ変な受け取り方をされて、発言を捻じ曲げられるかわかったものじゃない。相手をしないのが一番だ。
「そうやって強がっていられるのも今のうちですわ。もうすぐ投票日……そこでワタクシに無様に敗北して、その醜態を晒すといいですわ!」
「天条院様、そろそろ出番です」
「あらもうそんな時間? では選挙の前に、このバレーボールで、ワタクシの華麗な姿を生徒達の目に焼き付けてさしあげますわ! おーっほっほっほっ!」
天条院は高笑いをしながら、コートの中に入ると、そのままゲームを始める。
てっきり態度と口だけでかいのかと思ってたけど、想像以上に上手いなあいつ……普通に褒めれるレベルだ。
そういえば、体育祭の時も、どの競技でもそつなくこなしてたし、リレーの選手にも選ばれてたな。
常日頃から、自分は優秀な人間だと豪語しているけど、本当に優秀なのかもしれない。性格が終わってるのが難点すぎるけど。
「なんていうか、あそこまでめげずに自尊心を押し出せるって、ある意味才能だよね……昔からあんな感じなのかな?」
「ゆいは中学から知ってますけど……あんな感じです」
「実は結構優秀だったりするの?」
「なんでもできるタイプ……ですね。全てが高水準でまとまってるって……感じです」
「それで性格が良ければ完璧だったんだがなぁ……天は二物を与えないってか」
……よく考えると、玲桜奈さんと天条院って少し似てて、そして対極な人間だ。
二人とも権力のある家に生まれ育った。だが、天条院は見ての通り、なんでも多彩に出来るタイプだ。一方の玲桜奈さんは、なんの才能もなかったから、努力でなんとかした人間だ。
そうやって育った結果、天条院は権力を振りかざし、やりたい放題する……要注意人物に。
玲桜奈さんは、こつこつ頑張って力をつけ、いろんな人と正面から関わり合って……その結果、慕われる生徒会長となった。
どうしてこんなに変わってしまうんだろうな? やっぱり環境? それとも持って生まれたもの? きっとそのどちらも正解だろう。
……考えても仕方がないか。天条院の分析をしたところで、俺にメリットは特にない。
「……? なんか臭くない〜?」
「俺、汗臭いか?」
「そうじゃなくて……なんかオイルの匂い?」
ソフィアがそう言った刹那、突然体育館に火が回り始めた。それもちょっと燃えるなんてレベルではなく、もう一気に燃え広がった!
「きゃああああ!?」
「え、な……火事!?」
あまりにも突然の事すぎて、頭の中が真っ白になってしまった。周りの生徒達も悲鳴を上げながら、逃げたり座り込んだりしてしまっている。教師ですらパニックになっていた。
「あ、あぁ……も、燃えてる……!? ど、どうしよう……!?」
「あ、あわわわ……は、ハル~!」
「大丈夫、慌てずに落ち着いて避難しよう!」
突然燃え始めた体育館。スプリンクラーで消火作業をしてるけど、焼け石に水だろう。さっさと逃げないと。
「ふふっ、始まりましたわね……な、なんて事ですの~! 貧しい下民が死ぬのは構いませんが、ワタクシが死んだら、それこそ日本の大損害になります! というわけで、ワタクシはお先に失礼しますわ~!」
そういうと、天条院は我先にと体育館から逃げていった。それに続くように、他の生徒も一斉に逃げ出していった。
あ、あの野郎……! こういう時こそ、上に立つ人間が指揮を執って逃がすものだろう! それをいの一番に……とことん腐ってやがる!
くそっ、今はあんな奴の事はどうでもいい! 俺達も避難を……いや、それも大切だけど、みんなを避難させないと! きっと玲桜奈さんがここにいたら、同じ事を思うはずだ!
「みんな落ち着いて! 慌てず順番に出口から出よう!」
早くみんなを避難させないといけないのに……パニックになってしまって、みんなに俺の声が全く届かない。
まさに阿鼻叫喚。このままでは火が回って逃げ道が完全に無くなってしまう。
どうすればいい……俺にはやっぱりそんな大それた事はできないのか……!?
「なにぼんやりしている! 一緒に避難させるぞ!」
「玲桜奈さん!?」
自分の無力さに打ちひしがれていると、玲桜奈さんが他の生徒会のメンバーや教師と一緒に、体育館へと駆けこんできた。
「火災警報が鳴ったから、慌てて飛んでしたんだ! さあ、みんなを避難させる手伝いをしてくれ!」
「わかりました!」
「みんな! 大丈夫! 慌てずに校庭へと避難するんだ! 煙を吸わないように、口にハンカチを当てる事と、姿勢を低くする事を忘れずに!」
玲桜奈さん達が来た事で、みんな少し安心したのか、冷静に指示を聞いて次々と体育館を脱出していく。
やっぱり玲桜奈さん達は凄い。ものの数分で全員の避難が完了してしまった。
「ふう、これで一安心だな。陽翔、手伝ってくれてありがとう」
「そんな……俺なんて、何も出来ませんでした。声をかけても、みんなに届きませんでした」
「パニックになってる状態で、まだ信頼がない人間の声は届かないものだ。私が陽翔と同じ立場だったら、きっと上手くいっていない。だから、そんな気を落とす必要は無い。率先して生徒を助けようとしたその姿勢……私は誇らしく思うぞ」
玲桜奈さんはそう言いながら微笑むと、俺の手をぎゅっと握ってくれた。
その気持ちや言葉は嬉しいけど、生徒会を目指す以上、優しさに甘えてちゃいけないよな。
そんな事を思っていると……。
「玲桜奈、マズイ事になったわぁん……」
「どうかしたのか、イサミ?」
「……一人逃げ遅れたみたいなのぉ」
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