第120話 バレバレの好意

「…………え、金剛先輩?」


 ロッカーを開けると、そこにいたのはロッカーに押し込まれた金剛先輩の姿だった。体格が大きいせいで、凄い体勢になってるぞ……。


「あらぁん! バレちゃったわぁ~!」

「イサミ……何をしているんだ……かくれんぼの趣味でもあったのか?」

「それの説明をしたいんだけどぉ……ちょっと出るのを手伝ってもらえないかしらぁ! 身動きが取れなくてぇん!」


 金剛先輩のよくわからない行動に面食らいながらも、西園寺先輩と力を合わせて金剛先輩をロッカーから無事救出した。


 これ、どうやって入ったんだ……? そもそもなんで金剛先輩は、こんな所に入っていたんだ……?


「イサミ、説明してもらおうか?」

「最近、玲桜奈の様子が変だったからねぇん……それに加えて、今日は絶対に昼休みは生徒会室に来ないように! なんてメンバー全員に言うもんだからぁ……これは何かあると思って隠れてたのよぉん」

「つまり……西園寺先輩が心配で、隠れて真相を掴もうと?」

「そういう事よぉん!」


 金剛先輩らしいというか、なんていうか……西園寺先輩に直接聞けばよかったじゃないかとか、隠れるならこんな狭い所じゃなくてもとか、ツッコミ所は満載だけど、悪気があったわけじゃなさそうだ。


「って……もしかしなくても、俺達の会話って聞いてました?」

「ええ、聞いてたわぁ」

「…………」


 で、ですよね~……マズイな。俺達の関係は、ソフィアとゆい以外には誰にも教えてない。それは、西園寺先輩が学園で有名人だから、変に話が拗れて広がらないようにするためだ。


 それがまさか、こんな形でバレるとは……思ってもなかった。


「イサミ、この事は――」

「大丈夫、誰にも言わないわぁ。これが知れ渡ったら、変に話が拗れて面倒な事になりかねないしぃ」

「そうしてもらえると助かる」

「金剛先輩、ありがとうございます!」


 とても良い笑顔で親指を立てて見せる金剛先輩に、俺は深々と頭を下げた。


 バレた相手が、話が通じる金剛先輩で助かった。これがもし天条院みたいな奴だったらと思うと……寒気がする。


「ぶっちゃけた話、玲桜奈が磯山ちゃんに惚れてるのはバレバレだったしぃ……驚きもしないんだけどねぇん」

「ど、どういう事だ!? 私だって、自分の気持ちに気づいたのは、夏休みにソフィアさんに言われたからで……!」

「まさかの無自覚ぅ? まあお堅い玲桜奈じゃ仕方ないのかしらん?」


 大きく肩をすくめながら、ジト目で呆れる金剛先輩。


 俺も西園寺先輩を含めた三人が、俺に多かれ少なかれ好意を持ってくれているのは、なんとなくわかってたけど……まさか部外者にも感づかれてたとはな。


 ……待てよ? って事は……他の人にもバレてたんだろうか? もしそうなら、よく俺は無事でいられたな。西園寺先輩を奪った! みたいな感じで、西園寺先輩のファンが怒ってもおかしくないだろうに……。


「ちなみになんですけど、西園寺先輩のどの辺を見てそう思ったんですか?」

「そうねぇん……磯山ちゃんと話してる時の玲桜奈はとても楽しそうなのと、たまにアタクシ達の会話に磯山ちゃんが出てくると、嬉々として話してたのよねぇ。最近だと、話を振ってもいないのに、磯山ちゃんの話とかしてたしぃ」

「お、おう……なるほどです」


 これは言い逃れ出来ない奴だ……ていうか、西園寺先輩って俺のいない所でそんな話をしてたのか……嬉しいような、恥ずかしいような。


「い、イサミ! それ以上はよせ! 私を辱めて楽しいのか!?」

「すっごく楽しいわぁ! 長年付き合ってるけど、こんな玲桜奈はレア中のレアだからねぇん!」

「イサミぃぃぃぃ!」


 西園寺先輩は金剛先輩の肩をがっしりと掴むと、そのまま前後に激しく振った。しかし、金剛先輩は余裕そうに笑うだけだった。


「金剛先輩、あんまり西園寺先輩をいじめないであげてください」

「あらやだ、怒られちゃったわぁ。ふふっ、彼氏らしい事が出来てて、アタクシ安心だわぁ」


 か、彼氏らしいって……確かに彼氏だけど、改めて言われると凄く照れるから、勘弁してほしい。


「それでそれで、告白はどんな感じだったのかしらぁ? いろいろ教えてぇん」

「は、はぁ!? そんな恥ずかしい事など言えるか!」

「別に恥ずかしがる事ないじゃないのぉ。減るもんじゃないしぃ」

「恥ずかしいですよ! 西園寺先輩、逃げましょう!」

「逃がさないわよぉ!」


 生徒会室から逃げようとしたが、俺も西園寺先輩も、金剛先輩にがっしりと肩を組まれてしまったせいで、逃げられなくなってしまった。


 ち、力強すぎんだろ! 暴れてもビクともしないんだけど!? 恥ずかしいから勘弁してくれー!


「……ありがとねぇ、磯山ちゃん」

「え、何か言いましたか?」

「なんでもないわぁ。さあさあ、アタクシに洗いざらい白状なさ~い!」


 ……これは逃げられそうもないぞ。もう諦めるしかないなこれは……。



 ****



「ハルー……大丈夫?」

「お、おう……」


 西園寺先輩と一緒に昼食を取ってから一週間。俺は自室のベッドでうつ伏せになりながら、ソフィアの声に小さく返事を返した。


 ……あれから、西園寺先輩と全然話せていない。何故か最近の西園寺先輩はとても忙しそうで、学校で会ってもほとんど話せないし、放課後にメッセージを送っても短い返事しか返ってこない。


 また一緒に昼飯食べたいなぁ……はぁ。


「あれ、電話きてるよ」

「電話……?」

「玲桜奈ちゃん先輩から!」

「はぁ!?」


 まさか電話なんて来ると思ってなかった俺は、飛び起きてスマホを手にする。そこには、確かに西園寺先輩の名があった。


「アタシ、邪魔にならないようにリビングにいるね~」

「あ、ああ……ありがとう。もしもし!」

『こんばんは。今大丈夫かな?』

「こんばんは! はい、大丈夫です!」

『ならよかった。ちょっと話があってな』


 話ってなんだ? もしかして、いきなり別れようなんて話じゃないよな?


『最近多忙だっただろう? 実は、それがまだもう少し続きそうでな』

「……はい」

『それの理由なんだが、休日に丸一日スケジュールを開けるためなんだ』

「はい?」

『その……あれだ。その開いた日にデートをしようという誘いだ! 少しは察しろ!』

「…………」


 デート……デートってあのデートだよな……え、ええ!?


『磯山君? 聞こえているか?』

「き、聞こえています。なんていうか、いきなりだったのでつい……」

『本当はサプライズで隠しておくつもりだったんだが、ゆいさんに磯山君の状況を聞いてな。それで潔く話そうと決めたんだ。隠していてすまなかった』

「そんな、謝らないでください!」


 俺は馬鹿だな……西園寺先輩は俺の事を考えていてくれたのに、俺は一人で落ち込むだけで……反省しろ俺!


『それで、一緒に遊園地に行きたいと思っているんだが、どうだろうか?』

「いいですね、行きましょう!」

『決まりだな。予定通りに終われば、二週間後の日曜が、一日フリーに出来そうだから、開けておいてもらえると助かる』

「了解です!」

『要件はそれだけだ。それじゃおやすみ』


 西園寺先輩と電話を終えた俺は、ボーっと天井を見つめた。


 西園寺先輩とデート……遊園地……あの西園寺先輩からお誘い……頭の中がぐちゃぐちゃになってきたけど、それ以上に嬉しさが勝っていた。


「っ……!!」


 このまま大声を出して喜びを爆発させたかったんだけど、さすがにソフィアや近隣の人の迷惑になると思った俺は、咄嗟に枕に顔をうずめた。


「ふぉっふぁー!」


 枕に叫んだせいで変な声になったけど、そんなのどうでもいい! 西園寺先輩とデートに行ける! 二週間は結構長いけど、何とか耐えきってみせるぞ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る