第116話 ゆいの作品を広めよう
ゆいの看病をしてから五日。ようやく体調が良くなったゆいと一緒に、学園へとやってきた。
もう熱も下がってるし、顔色もかなり良くなったとはいえ、また体調を崩すかもしれない。油断はしない方がいいか。
「なあソフィア、いい加減ゆいを解放したらどうだ……?」
「いーやーでーすー! ずっと会えなかったんだから、たっぷりゆいちゃん成分をチャージするんだもん!」
「ふぎゅう……」
一緒に学園に来たソフィアは、登校中も、教室についてからも、ずっとゆいを離さずにくっついていた。
久しぶりに会えて嬉しいのは重々承知だけど、そろそろ解放しないと、ゆいがソフィアのおっぱいで溺れ死んでしまう。
「ふふ、様子を見に来たが、どうやら心配はいらなかったようだな」
なんとかソフィアを引き剥がそうと躍起になっていると、西園寺先輩と金剛先輩が教室へとやってきた。
朝にくるのは珍しいな。しかも金剛先輩も一緒なんて、なおさら珍しい。
「ゆいさん、調子はどうだろうか?」
「はい、もう大丈夫です。ご心配をおかけしてごめんなさい……」
「友人を心配するのは当然の事だ」
「友人……えへへ」
ずっと一人ぼっちでつらかった中、こうして正面から友人と言われて嬉しかったのだろう。ゆいは西園寺先輩に撫でられながら、頬を緩めていた。
「おっと、あんまり独占していると、彼氏様に嫉妬されてしまうな」
「嫉妬なんて……し、しませんヨ?」
「謎の間に、噛んだ上にカタコト!? もう完全にアウトだよー!」
うるせえうるせえ! やきもち焼いてましたよ! 俺がゆいの頭を撫でてあげたいとか、抱きつきながら登校したかったとか思ってたさ!
でも、そんなのを表に出すわけにはいかないだろ!? これでも、実際生きてる年数は、ゆい達の倍くらいはあるんだし、それくらいの分別はついてる! 危ないのは、二人きりの時の理性くらいだ!
「あ、あれ……金剛先輩、その手に持ってるものって……」
「もちろん桜羽ちゃんの漫画が載ってる雑誌よん! アタクシ、すごく感動しちゃってぇ! 話もそうだけどぉ、あの大人しくて引っ込み思案だった桜羽ちゃんが、こんなに頑張ってるのが嬉しくて……うぉぉぉん!」
巨大な体には合わないくらい可愛い雑誌を抱きしめながら、金剛先輩は滝のような涙を流し始めた。
見た目が超ゴリラ系だから、そんな事をすると悪目立ちしちゃうんだよな……。
「そうだ、天条院もこの雑誌に漫画を載せてるそうじゃないのぉ。試しに読んだんだけど、これも面白いから憎たらしいわぁ」
「しかも、天条院が率先して投票をしろって言いふらしているようだ。身内や友人にも
連絡しているらしい」
なんだよそれ、そんな事をされたら、こっちが勝てる見込みが一気に減る事になる。ゆいの人脈で対抗しようにも、圧倒的に差がある。
「なら、俺達もゆいの漫画は面白いって広めればいいんじゃないか? あくまで面白いって言うだけで、票を入れるようには強制無しで」
「あ、それいいね! たくさんの人に広めよう!」
「なら私は、クラスメイトや使用人達に勧めよう。幸いにも漫画に詳しい人間もいるからな」
「アタクシも協力するわぁ!」
「みなさん……ゆいのために……ありがとうございます」
みんなゆいの頑張りを知っているからか、快く引き受けてくれた。頑張ってる人が報われる……これがあるべき姿だよな。
さて、感慨に浸ってる場合じゃないな。俺もゆいの漫画を広められるように、少しでも動かないと!
……でも、俺って学園じゃかなり浮いてるし……どうしたもんかな……?
「磯山ちゃんは、桜羽ちゃんの傍で支えてあげるのよん」
「え?」
「今の磯山ちゃん、自分には広めるのは難しいし、どうすればいいかなって思ってたでしょん?」
すげぇ、完全に見透かされている。もしかして顔に出てたか?
「人間にはそれぞれ役目というものがある。私達は私達の役目を果たすから、磯山君にしか出来ない役目を果たすんだ」
「西園寺先輩……わかりました。ゆいは俺に任せてください」
そうだな……出来ない事をやっても仕方ない。それよりも、俺にしか出来ない事……ゆいのケアに専念しよう。
****
あれから一月ほど経ち、いよいよ結果が発表される日となった。
予定では、今日集計されて順位が決まる。その後に連載されるかどうか決まるんだったな……。
「き、緊張します……」
「だだだ、大丈夫だよ!」
「なんでソフィアがそんなに緊張してるんだ……?」
「結果はもう出ている。慌てず、静かに結果を待とう」
最終下校時間が迫ってきて、生徒が大体帰ったおかげか、静寂に包まれた生徒会室に集まった俺達は、担当編集の加藤さんからの連絡を心待ちにしていた。
そんな中、ノックもせずに扉が勢いよく開かれた。
「あらあら、下民達が集まってますわね。お通夜みたいで見てられませんわ」
「天条院? 何しにきた!」
「そんなの、この選ばれしワタクシの勝利の場面を、あなた達にも味合わせてさしあげるために決まってるでしょう?」
もう勝ちを確信しているかのように、俺達を見下す天条院。
とことん暇で、とことん性格が腐ってるとしか言いようがないなこいつ……本格的に救いようがない。
「それは結果を聞くまでわからないだろ」
「聞くまでもありませんわ」
「……あっ、来た!」
テーブルの上に置いておいたスマホ上に、担当編集者の加藤さんの名前が表示された。
ついに結果が……前回は振るわない結果だったし、天条院に勝つためにも、頼むから良い報告であってくれ……!
「も、もしもし……桜羽です」
『加藤です。結果が出たので連絡したわ』
「は、はい……どうでしたか……?」
『結果は……』
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