第84話 アメリカからの転校生
「ハル……アタシは猛烈に悲しい」
「どうした急に」
「悲しいんだよぉ」
しばらく経ったある日の朝、今日も俺の隣で全裸で寝ていたソフィアだったのだが、なぜか意気消沈していた。
「夏休みが終わっちゃったー!! 今日から学校だー!」
「そりゃいつかは終わるだろうさ」
ソフィアは夏休みが終わるのがよっぽど悲しいのか、滝のような涙を流していた。かわいい。
「なんでそんなに冷静なのー!? もっと二人で出かけたかったよ! ハイキングとか、カラオケとか、釣りとかもしてみたかったよ!」
「だー! 熱弁するのは良いけど、裸でくっつくな! おっぱい押し当てるな!」
「こういうの大好きなくせに~」
「大好きですっ! じゃなくて!」
今日も朝から騒がしくはあったけど、何とか俺もソフィアも制服に着替える事が出来た。夏服だから、風通しが良くて着心地が良い。
「ほら、楽しい日々はまた来るからさ。今日からまた頑張ろうな」
「ハルの元気をチャージしないとむりー」
「どうすればいいんだ?」
「んっ」
ソフィアは目を閉じながら、俺に向かって手を大きく広げてみせた。それを見てなんとなく察した俺は、ソフィアの事を抱きしめてあげた。
「これでチャージできるか?」
「できない~直接注入して~」
「あぁ……なるほど理解した」
つまり、これはソフィアがただキスがしたくて甘えてるだけだな? なんだよこの可愛い生き物! 家に持って帰って飼ってもいいか? ってここ家だったわ。
「ほら、目ぇ瞑って」
「ん……ふぅ……はぁ、ん……じゅる……」
今日も当然と言わんばかりに、俺達は深いキスをし続ける。これをしていると、幸福と興奮で頭がボーっとしてきて、よくわからなくなってしまうんだ。
「ハル……もっとぉ……」
「ああ……もうちょっと大きく開けて」
「こう?」
「そうそう。これでこうして……」
「ふぁ……れろぉ……じゅる……ちゅう……」
唾液がまじりあう、なんとも……その、エッチな音が聞こえてくる。この音が更に俺達の気持ちを高めにくる。
でも、残念ながら今日から学園に行かないといけないから、このままソフィアとイチャイチャする事は出来ない。
「ソフィア、そろそろ準備しないと」
「むぅ……ハル、学校サボっちゃおうよ~」
「駄目に決まってるだろ。ほら、一緒に朝飯の準備しちゃおうな」
「は~い」
渋々ではあったが納得したソフィアと共に、俺はキッチンへと向かって歩き出した。
あ、言っておくけどちゃんと服は着させたからな? さすがに裸エプロンはさせてないぞ! また見たいけど――ごほん、なんでもない!
****
「あれ、なんか騒がしいね」
「そうだな」
教室にやってくると、いつもよりも教室の中が騒がしかった。とは言っても、さすがはお嬢様学園と言うべきか、普通の学校よりかは騒がしくはないけど。
「おはよ~! 何かあったの?」
「あ、小鳥遊さん。おはようございます。今日、海外から転校生が来るらしいんですの」
「転校生? そうなんだ! ハル、楽しみだね! もしかしたら、二人目の男子生徒かも!」
近くにいたクラスメイトから聞いたソフィアは、目をキラキラさせながら笑った。
転校生か……そういうのにワクワクするのは、どの世界でも共通なんだな。それがたとえお嬢様学園でも例外ではないようだ。
とはいえ、俺としては正直あんまり興味は無いというのが本音だ。
「ところで、二人はどうして手を繋いでますの?」
「あ、アタシ達付き合い始めたんだ~!」
「ばっ、おま――」
なんの悪びれもなく、あっけらかんと話すソフィアに、俺は思わず言葉を詰まらせた。
ただでさえ俺の評判は良くないのに、異性と付き合い始めたなんて知られたら、不純異性交遊だって陰口を言われるかもしれない。
その陰口が、俺に言われるのは全然良いんだ。前世で言われ慣れてるし。それがソフィアに行くのが大問題なんだ。
そう思ってたんだが……。
「……? えっと、むしろ付き合ってませんでしたの?」
「え? うん、夏休みから!」
「そ、そうですか……てっきり入学した時から付き合ってるものかと……」
やや呆れ気味のクラスメイトに続くように、他のクラスメイトが何人も首を縦に振って同意を示していた。
あれ……思ったより好意的だ……。あれだけ公共の場でベタベタして、いつも一緒にいれば、付き合ってるって思われてもおかしくはないのかもしれないけど、ちょっと意外だ。
「はい、みなさん席についてください。ホームルームをはじめますよ」
担任の一声で、クラスメイト達は一斉に席に着いた。けど、何となくみんな浮足立ってるような気はする。
「もう知ってると思いますが、今日からこのクラスの仲間となる子を紹介します。入ってきてください」
教室の入口が静かに開くと、そこから一人の女の子が堂々と入ってきた。
転校生はモデルみたいなスラッとした体形、切れ長で緑色の目とソバカスが特徴的な女子だった。あと、このギャルゲー世界にしては珍しく、胸が全然ない。
俺個人としては、綺麗な子だけど推し三人に比べたら勝てないかなって印象だ。あくまで個人的な考えだぞ。
「ハァイ! アメリカから来た、ディア・ウィリアムです! 日本語は喋れるので、ぜひ皆さん仲良くしてね!」
「みんな、ウィリアムさんと仲良くしてくださいね。席はそこの開いてる所を使ってください」
「オッケー!」
なんだか随分と明るい子だ。アメリカ出身だからなのも相まって、なんだかソフィアに似てるなって思う。
さて、そのソフィアはどんな反応をしてるだろうか。俺としては、仲良くできないかってソワソワしてるに一票を……ん?
「え……うそ……いや……な、なんで……?」
「……ソフィア?」
転校生をジッと見つめながら、なぜかソフィアは全てに絶望したかのように、顔が真っ青になっていた――
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