第54話 西園寺先輩を学園に残すには?

 翌日の放課後、再び生徒会室へとやってきた俺は、一緒に来たソフィアとゆい、そして事前に俺が呼んでいた生徒会の面々に、西園寺先輩の事を話した。


 みんな驚いたり、怒ったりと反応は様々な中、金剛先輩だけは静かにしているのが気になった。


 いつもの彼女だったら、うっそ~信じられないわぁ~! とか言いそうだけど……もしかして、この事を知っていたのか?


「みんな、黙っていてすまない……余計な心配をかけたくなくてな」

「アンタって子は、昔からそうなんだからぁ……」

「返す言葉もない」

「ま、遅くなったうえに磯山ちゃんの手助けがあったとはいえ、こうして相談してるんだから、成長したって事にしておくわぁ」

「ありがとう」

「えっと、来てすぐに事情を説明されたから、イマイチわかってないんだけど……用は西園寺先輩がピンチって事だよね〜?」

「そういう事だ」


 顎に細い人差し指を当てて考える素振りを見せるソフィアに、俺は小さく頷いて見せる。


 ちなみにだが、この件にも天条院が関わっている可能性があるが、敢えてそれは言っていない。変に拗れる可能性があるからな。


「ゆいもお手伝いします。西園寺先輩は命の恩人なので……!」

「アタシも、何でもするよ!」

「我々生徒会も、会長のために動きます」


 ゆいも生徒会の面々も、かなりやる気のようだ。これはかなり心強い。やっぱり人数がいた方が、安心感が違うからな。


「それで、西園寺先輩のお父さんが言うには、学園で西園寺先輩が必要と思われているかを証明しろって感じの事を言われたんだが……」

「みんな必要って思ってるよね~? 西園寺先輩って人気者だし!」

「でも……それを証明しろって……どうすればいいんでしょうか……」


 学園に必要とされている事の証明。言葉で言うだけなら簡単だが、それを目で見えるものにするのは、少し難しい気がする。何か良い案がないか……。


 みんなが頭を悩ませている中、金剛先輩は突然体をクネクネさせながら、俺達の前に出た。


「もぉ~みんな難しく考えないのっ。簡単じゃない! 学園で玲桜奈がこのままでは学園を中退させられる、だからそれを止めるために、残ってほしいって意思表示の署名を集めますって言えば良いのよぉ」

「っ……! 確かに!」


 あまりにも的を射ている回答に、俺は思わず手をパンっと叩きながら、大きな声を出してしまった。


 確かにその方法なら、一つのデータとしてまとめて提示する事が出来る、最良の方法に近いと思う。


 ただ、そんな事を無断で学園でやってもいいのだろうか? 許可を貰おうにも、そんなに簡単にもらえるのだろうか?


「よぉ~し、それでいくわよぉ! アタクシ達で先生達に署名を取る許可をもらってくるわぁん」

「では私は場所を取れた際に使う机や紙を用意します」

「それだと結構量がいるだろうし、自分も行きます!」

「みんな……本当にありがとう。私は良い仲間に恵まれて幸せ者だ」


 方向性が決まれば話は早い。金剛先輩を筆頭に、生徒会のメンバーがどんどんと話を進め始めた。


 その行動力が凄すぎて、俺やソフィア達は、完全に置いてけぼりになってしまった。


「すみません金剛先輩。俺……金剛先輩に頼りっきりで」

「あら、何言ってるのよぉ。今回の事は、磯山ちゃんがいなければ、玲桜奈は何も言わずに学園を去ってただろうしぃ、そもそもアタクシ達に知れ渡ってなかったのよぉ? もっと胸を張りなさい胸を!」


 ほぼ筋肉になっている巨大な胸を、大きく張る金剛先輩の姿があまりにも頼もしくて、俺は思わず笑みがこぼれてしまった。


「アタシ達、何もお役に立て無さそう……」

「で、ですね……」

「何言ってるのよぉ! あなた達も立派な戦力よぉん? 人数は多い方が、良いこと沢山だからねぇん! さあ、アタクシ達の生徒会長様を守るためにも、働くわよぉ~ん!」


 金剛先輩の熱烈なハグによって、二名の少女が死にかけたが……なんにせよ、どうすればいいかは決まったのは大きい。


 なぜなら、ゲームのバッドエンドだと、そもそも何があったかを知らされずに、西園寺先輩が去っていくのを、指を咥えて見ている事しか出来なかったからだ。


 あれは今思い出しても悔しいし、だからこそ西園寺先輩もバッドエンドから助けたちと強く思っているんだ。


「……磯山君」

「西園寺先輩? なんでしょうか」

「その……ありがとう」


 唐突に感謝を述べながら、西園寺先輩は頭を深々と下げた。急にそんな事をされたら、居心地が悪くなってしまう。


「あ、頭を上げてください。急にどうしたんですか?」

「これは言ってしまえば私の家族の問題だ。それなのに、君は親身になって行動してくれて……感謝してもしきれない」

「親身って……只のおせっかいってやつですよ」

「ちゃかすな。お礼といっては何だが、君が望む事なら何でもしようじゃないか」

「は、はあ……ありがとうございます」


 なんか凄い爆弾発言をしたぞこの人。元のゲームが全年齢版だからよかったが、十八禁だったらダメな方向になりかねない発言だぞ。


「なら、これからも学園で一緒に過ごして、西園寺先輩の卒業した姿を見せてください」

「っ……! 全く君という男は……本当に律義というか……」

「そういうところがハルの良い所なんですよ! ね~ゆいちゃん!」

「は、はい。優しくて、良い人で……自分よりも人の事を考えちゃう……そんな人です」

「…………」


 な、なんか体中がかゆくなってきたぞ。みんなして褒めるから! 前世の頃は褒められて育ってないし、現世でも父さんはあまり褒める人じゃなかったから、なおさらかゆい! かゆい!


「金剛先輩、許可もらいました!」

「こっちも準備オッケーです!」

「ん~さっすが生徒会は仕事が早いわぁ。それじゃ皆行くわよぉ」

「すまない、少しだけ磯山君と話がしたい。それが終わったら合流する」

「おっけぇ~よぉん」


 ゾロゾロとみんなが部屋を出ていく中、静かになった生徒会室で、俺は西園寺先輩と見つめ合っていた。


 こうしてみてると、キリッとした目が綺麗で、思わず吸い込まれてしまいそう……って、今はそんな事を考えてる場合じゃないよな。


「急にすまないな。一つ聞きたい事があってな」

「なんでしょう?」

「昨日、私に色々言ってくれただろう? どうして私にそんな事を言ってくれたんだ? それに、どうして私を助けてくれるんだ?」


 ……そんなの、理由は一つしかない。


「俺、あなたが大切だから助けたかった。ただそれだけです」

「っ!?!? 君は急に何を言いだしている!!」

「…………? 変な事を言ってましたか?」

「言ってるだろ!? ま、まだ心の準備が……って、なんで私準備なんてして……嫌なら即断るはずが……ああぁぁぁぁぁ」


 なんか部屋の隅で丸くなりながら、小声で唸っているな……小動物みたいで可愛い。可愛い大賞受賞です。


「そ、それではまるで……こ、こここ、告白みたいじゃないか!」

「え!? ち、違いますよ! 俺のさっきの言葉には、恋愛感情はありません!」

「むぅ……そうか……はぁ」


 あ、あれ? なんでそんな不服そうな顔をしているんだ……?


「は、話を戻しましょう。俺が西園寺先輩が好き(ライク)で、そんな西園寺先輩が困っていたから当然助けようとしている……それだけです」

「そうか……本当に……本当に君という男は……天然のタラシというか……」


 なんか酷い言われ様だ。確かに誤解されるような言い方をした俺が悪いのは分かってるが……。


 まあいいや。とにかく西園寺先輩を助けるためにも、頑張って署名活動をするぞ!

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