三章 バッドエンドをぶっ潰せ!

第48話 のんびりお勉強タイム

 体育祭から少し月日が経ち、六月になった。梅雨という事もあり、今日も外は雨が降っている。一日二日の雨ならいいんだけど、一週間ずっと雨は困るな。洗濯物が乾かないし。


 そんなジメジメする外とは打って変わり、教室の方は快適なんだが……机に突っ伏して、ジトジトしているソフィアがいた。


 ちなみに、あのパーティーの事件の後だが、先に起きた西園寺先輩に誤解されそうになったが、ちゃんと説明をしたら、西園寺先輩が持ってきたチョコのせいだと分かり、謝られて……それでおしまいだ。ソフィアとゆいは全く覚えてなかったし。


 さて話を戻すが……ソフィアの奴、明らかに何かあった感じだな。心配だし、声をかけてみるか。


「ソフィア、どうかしたのか?」

「あ、ハルぅ……」


 顔を上げたソフィアは、大きな目を涙で潤ませていた。


 個人的な趣味だが、可愛い女の子の涙目って凄く好きなんだよな俺。守ってあげたくなる。これが拗らせたギャルゲーマーの一人の姿だぜ。


「あのね、最近小テストが散々で……次の小テストが赤点だったら追試なの……」

「小テスト? 見せてくれよ」

「わ、笑わないでよ~?」


 ソフィアはスクールカバンから、紙きれを取り出して俺に見せてくrた。そこには……【現国:12】【数学:2】【英語:100】【社会:31】【理科:1】……。


「はぁ……」

「た、ため息つかないでよぉ」

「ソフィア、よくこの学園に入れたな。ていうか、英語だけは凄いな。100点なんて初めて見たぞ」

「うん! ハルが入学するって聞いて、一緒にいたいの一心で勉強しまくったからね〜! もうほとんど忘れちゃったけど! あと、英語はアメリカでずっと使ってたから!」

「ふっふーん……そ、そうかよ」

「あれ~? なになに照れてるの~? ハルかわい~♪」

「照れてねーよ!」


 くっそー……俺と一緒に学園に入るためにって……そんなのドキッとするに決まってるだろ。卑怯すぎるぜ!


 って……そういえば、ソフィアのイベントで一緒に勉強をするのがあったはず。ここは素直に遂行して良さそうだな。


「なら、今日一緒に勉強するか?」

「いいの!? って……ハルって勉強できたの?」

「まあそれなりには」


 体育祭の時は、前世の事があってあまり自信が無かったけど、今回は前世があるから自信がある。一応前世では勉強はそれなりに出来たからな。


「そうだ! ゆいちゃんと西園寺先輩も誘うっていうのはどうかな?」

「え? 別に構わないけど……」

「やったー! ならアタシの方から連絡するね! 場所は図書室で良い?」

「大丈夫」


 俺は短く答えながら、やや戸惑っていた。なぜなら、ゲームの中ではこれはソフィアとのイベントだったから、ソフィアと二人で行われるイベントだったからだ。


 まあ、俺としては全員をバッドエンドから救う以上、皆と仲良くできるのは都合が良い。ただ、ゲームと違う流れになったから、少し驚いただけだ。


 なんにせよ、ソフィアが追試になるのを回避するためにも、ちゃんと教えてあげないとな。



 ****



「というわけで、第一回勉強会をはじめま~す」

「第二回もある前提なのか……」


 放課後、小さめの声で笑うソフィアに対して、俺は小さく溜息を吐いた。そんな俺達を見て、わざわざ来てくれたゆいと西園寺先輩は苦笑いを浮かべている。


「ゆい、西園寺先輩。わざわざ来てくれてありがとう」

「い、いえ……その、あまり勉強は得意じゃないですけど……が、がんばりますっ」

「なに、後輩が頼んできたんだから、手伝うのは当然さ。丁度この時期は生徒会の仕事も少ないからな」


 急な招集だったにも関らず来てくれる二人の優しさには、感謝しかない。今度何かの形でお礼をしないとな。


「さてと、それじゃなにからやる?」

「数学からお願い~」


 ソフィアの要望に応えるために、俺達は数学の教科書を開く。とりあえず次の小テストで出そうな範囲をやれば大丈夫だろう。


 ……そう思っていたんだが、ソフィアは俺の想像以上に勉強が苦手だった。そのせいで、基礎の部分から教える必要があると分かった。


「それで、ここでさっきやった公式を当てはめてあげれば解けるから」

「おぉ~……本当だ~……ハルはすごいねぇ。アタシ全然わからなかったよ~」

「あ、あのぉ……西園寺先輩。ここはどうすれば……」

「見せてごらん。うん、途中まではちゃんと出来ている。あとはここをこうすれば……」


 いつの間にか、俺がソフィアを見て、西園寺先輩がゆいを見てあげるという構図が出来上がっていた。


 ソフィアを教えながら、チラチラと向かいに座る二人を見ているんだが、ゆいは普通に勉強は出来そうな感じがする。西園寺先輩に至っては、完璧と言っても良いくらいだ。


 問題は……こっちだな。


「ふえぇ~ん……数学だけでもこんなに大変なのに……あと四教科もあるよぉ……」

「泣いてても終わらないぞ。付き合うから頑張ろうな」

「うぅ……ハルの優しさが身に染みる……」

「ソフィアちゃん、一緒に頑張ろっ」

「私も空いてる時間だったら付き合うから、遠慮なく声をかけてくれ」

「みんな優しすぎるぅ……」


 よほど嬉しかったのか、本気で泣きだしてしまったソフィアの頭を撫でて慰めながら、俺達は勉強を再開する。


 勉強自体は大変だけど、最近は体育祭関連で忙しかったから、こんなにのんびりするのが凄い久しぶりな感じがする。こんな平和がずっと続けばいいんだけどな……。


 って、俺はなにフラグ発言をしてるんだ? まあシリアスなゲームじゃあるまいし、発言一つで変な事になるわけないよな。変な事を考えてないで、ソフィアの勉強を見てあげなきゃな。






「……なにあいつら。楽しそうに勉強なんてして……目障りな連中ですわ。特に桜羽さん……あなた、ワタクシのおもちゃだったのに、なにそいつらと楽しそうにしてるんですの? ああ忌々しい……考えるだけで体中がストレスでかゆくなりますわ……その笑顔を絶望に叩き落としてやる。あ、もしもし? ワタクシですわ。今から指示するところに行ってくださる? ええ、ええ……そっちの件はほとんど終わってるんですのよね? ならこちらに注力しなさい。よろしくお願いね……ふふっ」



 ****



「ん~~~~……集中してやってたから、体がバッキバキだ」

「ちゃんと運動をしないからだぞ」

「か、返す言葉もないっす……」


 最終下校時間になったので、強制的に外に出された俺達。そんな中、俺は体を伸ばしながら呟いていると、西園寺先輩に少し呆れられながら言われてしまった。


 運動なぁ……昔やっていた格闘技とかをまたやってみるのもありだろうけど、その時間は三人をグッドエンドに持っていくために使った方が有意義だろう。


「それで……ソフィアちゃんは、勉強大丈夫……そう?」

「うーん、まだダメかも……」

「それなら、別の所でもう少しだけやるか」

「すまない、私はこれから習い事があってな。家に帰らなければならない」

「そうだったんですね。わかりました。俺達でソフィアの面倒を見ます」

「うむ、よろしく頼む。また何かあったらいつでも声をかけてくれ」


 そう言い残して、西園寺先輩は黒光りの超高級車に乗って学園を後にした。こういうのを見ると、お嬢様なんだなっていうのがよくわかる。


 まあ、この学園は大体が金持ちの家だからなのか、高級車に乗って登校する生徒は普通にいるから、特に珍しい光景じゃないんだけど。


「やるなら俺の家でいいか?」

「あ、あの……その」

「ん? なぁにゆいちゃん?」

「よかったら、ゆいの家に来ませんか? いつも陽翔さんの家だとご迷惑ですし……あ、でもうち狭いし何もないので、嫌なら無理には……!」

「俺は全然いいぞ。ソフィアは?」

「いきた~い! 招待してほしいな~!」

「というわけだ。よかったら案内してくれるか?」


 心の底から嬉しそうに、そして楽しそうに小さく跳ねるソフィア。ジャンプに合わせて小刻みにおっぱいが揺れているが、見なかった事にしておこう。


「いいんですか? やったぁ! あっ……ごめんなさい! お家にお友達を呼ぶなんて生まれて初めてで……よく少女漫画でお家で遊んでるのを読んでて、羨ましくて……」

「そうだったんだな。俺達で良ければいつでも行くのに」

「陽翔さん……ありがとうございます。ゆい、先に帰って片づけをしておきます! 場所はスマホに送っておきますから!」


 そう言いながら、ゆいはまるでスキップをするように軽やかな足取りで去っていった。


 全く、あんなに大はしゃぎをして。よっぽど家に招待するのが嬉しいんだろう。っと、早速家までの地図が送られてきたな。


 ……ん? 家に……招待……? 何か引っかかる。よく思い出せ……何かイベントがあったはずだ……!


「…………」

「ゆいちゃんのお家、楽しみだね~……ハル? どうしたの?」

「……思い出した!!」

「うわぁ! びびび、びっくりしたぁ……何を思い出したの?」

「このままじゃゆいが危ない!」


 そうだ、思い出した。ゆいの家に行くイベント……ゲームでは勉強ではなくて遊びに行くって内容だけど、導入がほとんど同じだ。


 そしてこれは……ゆいのバッドエンドに繋がるイベントだ……!!

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