第49話 ゆいのバッドエンドを壊すために

「ハル、顔色悪いよ? 大丈夫?」

「ああ……」


 空返事を返す俺の頭の中には、ゆいの事でいっぱいになっていた。


 早くしないと、このままではバッドエンドのルートになってしまう。その内容とは、ゆいが暴漢達に乱暴をされてしまい、心と体に二度と癒える事がない傷を負う事になる。


 その後、主人公の甲斐甲斐しいメンタルケアも虚しく、ゆいは人生に完全に絶望してしまい、そのまま自殺をしてしまう……それがゆいのバッドエンドルートだ。


 ……ふざけんな。思い出しただけでも腹立たしい。ゆいが何をしたっていうんだ。毒親のために頑張って、捨てられて。ようやく前向きになれたのに、こんな事で潰されるだなんて……絶対に許さない。


「ソフィア、一度家に帰って着替えてきたらどうだ?」

「あ、その方が時間も潰せるしいいね。じゃあ一緒に……」

「いや、俺は別件があるから、それを片付けたら合流するよ」

「え~!? しょうがないなぁ……今度埋め合わせをしてよね!」

「俺に出来る事なら」

「なら背中流しても~らおっと! じゃあまたあとで~♪」


 正直、これからかなり荒っぽい事になるから、ソフィアには帰ってもらった方が安心できる。なんか嫌な言葉が聞こえてきた気がするけど、それは置いとこう。


 さて、事件が起こる場所は覚えてる。とにかく早く追わないといけないんだが……一人だと戦力に不安が残るから、武術が出来る西園寺先輩がいてくれると心強い。


 推しを危険な目に合わせるだなんて、言語道断なんだが……それくらい切羽詰まってる状況だ。


「頼む……! 出てくれ……!」

『もしもし、磯山君? どうかしたのか?』

「西園寺先輩! ゆいが! ゆいが危険な目に!」

『なに!? どういうことだ!?』

「うまく言えませんが……この後に、ゆいが傷つくんです!」

『いまいちよくわからないが、ひとまず信じよう。それで、私は何をすればいいんだ?』

「これから送る住所に来てください! 俺もそこに向かいます!」


 そこで一旦電話を切ってから、俺は西園寺先輩に地図を送信した。


 これから習い事だってのに、快く引き受けてくれるなんて……本当に優しい人だな。思わず惚れちゃいそうだ。


 さて、そんな事を考えてないで、ゆいと合流をしなければ。


 ゲーム通りと仮定して、俺の記憶が間違ってなければ……ゆいの家に行く途中にある、裏路地から入った所にある、人気のない小さな公園にいるはずだ。西園寺先輩にも、その公園周辺の地図を送っている。


「はぁ……はぁ……間に合え……間に合え!!」


 街中を駆け、最短距離で路地裏に入り、転がってるゴミを蹴り飛ばしながら走る。走る。走る。


「……見えた!」


 走りだしてからどれくらい経っただろうか。正確な時間はわからないが、考えうる最速で目的地に到着した。そこには、何人もの男達が、公園の隅で何かを囲っている光景が広がっていた。


 俺の位置からでは何を囲っているかは見えないが、ゲーム通りなら……あの中心にいるのはゆいのはず。万が一違ったら、全速力で逃げてから西園寺先輩に謝ろう。


 それにしても、パッと見で十人以上はいるっぽいな……助けられるのか? いや、出来る出来ないじゃない、やるんだ……俺はそのためにここにいるんだ!


 よし……いくぞ!!


「おい! なにをしている!」

「……? なんだ坊主、邪魔すんな」

「うぅ……陽翔さん……?」

「ゆいっ!!」


 一斉に男達の視線が俺に向いた。その際に動いてくれたからか、中心にいたゆいの姿を確認する事が出来た。


 まだ酷い乱暴はされてないのか、ゆいは制服姿のまま、恐怖で小さく蹲っている。あんなに震えて……待ってろ、今すぐ助けるからな!


「坊主、どうやってここを嗅ぎつけた?」

「教える義理は無い! ゆいを開放しろ! そうすればお前らの事は誰にも言わない!」

「悪いが、これも仕事でな。遂行しないと、俺達が酷い目に合わせられる……お前ら、坊主を歓迎してやりな」


 一人だけスーツを着た男の指示に従うように、数人の男達がゾロゾロと俺の方に歩み寄ってきた。


「陽翔さん……ゆいは大丈夫ですから……逃げて!」

「…………」

「嬢ちゃん、少し静かにしてもらえるか?」

「ひゃう……に、逃げて……!」


 スーツの男に脅かされたにもかかわらず、ゆいは涙を浮かべながら、震えた声を荒げる。


 こんな状況でも、ゆいは俺の事を心配してくれるんだな。本当に優しくて……自分を大切にしなさ過ぎて、腹立たしさすら覚えてしまう。


 ゆいはもっと自分を大事にした方が――って、お説教は全部終わってからにしよう。


「ごめんな、ゆい。ここで逃げるくらいなら、俺はここで死んでもいい」

「……そんな……危険なんですよ!? この人達の目的はゆいです! 陽翔さんは部外者なんですから……巻き込まれる必要は無いです!」

「部外者? そいつは心外だな。大切な推しを守らないで、何がギャルゲーマーだ!!」


 ゆいを含めた三人は、ただの友達ではない。俺にとって、大切な推しキャラであり、絶対に助けたい相手だ。


 そんな彼女達がピンチになったというのに、体を張って助けないなんて、ギャルゲーマーの血が泣くってもんだ!


「おい兄ちゃん、正義の味方を気取ってるのかは知らねえが、痛い目に合ってもらうぜ」

「おらぁ!」


 顔に飛んできた拳を最低限の動作でよけながら、殴ってきた男に金的を入れて一撃で沈めた。


 今日ほど格闘技をやっていて良かったと思った日は無いな……格闘技を習わせた父さんには感謝しかない。


「こいつ、卑怯な真似を……お前ら、油断するな。どうなってもお嬢様がもみ消してくれる。だから……任務は必ず遂行しろ!」

「何をごちゃごちゃ言ってる! さっさとゆいは返してもらうぜ!」

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