第34話 体育祭、開幕!
練習を始めてから月日は流れ――五月の末の土曜日。いよいよ体育祭の本番となり、校庭は熱気に包まれていた。辺りからは応援の声や、黄色い声援が飛び交っている。
前世の時は、こんなに体育祭で盛り上がってるのなんか見たことない。これも景品のためなのか? それともギャルゲーの世界だからだろうか。
あと……どうでもいいかもしれないが、この学園の体操着は、ブルマが採用されている。そのせいで、どこを見ても生徒の生足が露出されていて、大変の目のやり場に困るんだよ……。
「いっけー! がんばれー! ほら、ハルとゆいちゃんも応援しなきゃ!」
「が、頑張ってくださーい!」
「頑張れ~」
二年生の全員リレーを見ながら、俺達は観客席から声援を送る。
もうそろそろ西園寺先輩の出番だが……お、言った傍から回ってきた。選抜リレーに出るくらいなんだから足は速いはずだが、順番は真ん中辺りなんだな。
ちなみに二年生は十クラス、西園寺先輩のクラスは七位で、先頭集団は団子状態。ここから逆転できるのだろうか?
「うわっ……」
「速いですね……」
一緒に見ていたソフィアとゆいが、西園寺先輩の事を見ながら呆気に取られていた。もちろん俺も。
なぜなら、西園寺先輩が前を走っていた選手達を、あっという間にごぼう抜きにしてしまったからだ。
「きゃー!! 会長ー!!」
「かっこいいですー!!」
西園寺先輩が一位に躍り出たと同時に、校庭に今日一番の黄色い声援が響き渡る。男の俺が見てもカッコいいと思うんだから、彼女達からしたら輝いて見えるだろう。
「いや~すっごく速かったね! ハル、勝てる見込みはあるの?」
「低いとは思う。けど、勝負はやってみないとわからないだろ」
「お、やる気満々だね! 昔だったら絶対に勝てないって言ってたのに!」
「あ、あの頃とは違うって事だよ」
ソフィアの言う通り、前世を思い出す前――つまりゲームの中での陽翔の弱々しい性格だったら、絶対に言ってたと思う。
しかし、今の俺は前世の性格だ。いじめからは逃げたとはいえ、今回は逃げられない。何故なら、ここで負けたらバッドエンドに向かってしまうかもしれないからだ。
……え、勝ったらバッドエンドに向かう可能性もある? ま、まあそうだけど……負けよりも勝ちの方が、グッドエンドに持っていけそうな気がしないか? 俺はそう思う!
「あの……お二人共、次は二人三脚ですから……そろそろ入場ゲートに行った方が……」
「そうだな。教えてくれてありがとう。ソフィア、行こう」
「おっけー! よーっし、絶対に勝つぞー! ゆいちゃん、応援よろしくね!」
ゆいにブンブンと大きく手を振るソフィアと共に入場ゲートに向かうと、実行委員を務める女子から、細い布を受け取った。
「あらごきげんよう、チーム下民のお二方」
「天条院……」
入場の指示を待っていると、天条院が相方を連れてわざわざ話しかけてきた。
どうやら相方はお付きの一人みたいだな……大方予想通りというか、ここはゲーム通りだ。
「先程係から順番を聞いたんだけれど、どうやら一緒に走るようですわ」
「えぇ~……」
「あらなんですのその顔は。そんなにワタクシと走れる喜びを悟られたくないんですの?」
うわっ、ソフィアの渾身の嫌な顔を、とんでもないポジティブ思考で受け取ったぞ。メンタル最強かよ。
「まあいいですわ。今回は正々堂々勝負をいたしましょう」
「正々堂々? お前に一番似合わない言葉だな」
「あら怖い。弱い犬程よく吠えるとはよく言ったものですわ。ふふっ……大恥かかせてやりますわ……」
おい、最後の部分聞こえたぞ。何かやってくるのは間違いなさそうだな。
ゲームだと、スタート直後から体当たりをしてきて転ばしてくるはずだったが……同じ戦法を取ってくる保証はない。妨害される前に、さっさと前に行った方が良いだろうな。
「では選手の皆さん、ついてきてください」
「ハル、行こう」
「ああ」
話してる間にリレーが終わったようで、俺達はトラックの中央へと案内された。どうやら俺達は最後のようだ。
さて、ここで布を結んでっと……よし、ちゃんと結べた。係の人にもチェックしてもらったし、準備万端だ。
「ソフィア、大丈夫そうか?」
「大丈夫! たくさん練習したし!」
ソフィアは自信たっぷりに言いながら、握り拳を作ってみせた。
ソフィアの言う通り、俺達はあれから何度も自主練を重ねた。そのおかげで、かなりの速さを出せるようになった。
でも、結局ソフィアのよわよわ防御を克服する事は出来なかったのが、やや懸念点ではある。
「では最後の方、レーンにどうぞ」
列に並んで先に走る選手を見ていたら、いつの間にか俺達の出番になっていたようだ。
俺達がレーンに立つと、先程まで歓声だったものが、ややブーイングが入り混じったものに変わった。
まあ……いまだに学園の中には俺をよく思っていない生徒もいるし、しょうがないのはわかってる。俺は良いんだが、ソフィアは大丈夫だろうか?
「ソフィア……」
「アタシは大丈夫! ハルは?」
「俺も大丈夫」
「ならよかった。それにアタシ達は一人じゃないよ。見て」
ソフィアの視線を追うと、そこにはわざわざスタート地点の近くにまで来て応援をする、ゆいの姿があった。
「陽翔さーん! ソフィアちゃーん! 頑張ってくださーい!」
「ゆい……ありがとう!」
「ありがと~! ほらハル、あっちも!」
「ん?」
再びソフィアの視線を追うと、運営陣のテントの下で競技を見ている西園寺先輩と視線がぶつかった。向こうも俺に気づいたのか、大きく頷いてくれた。
ゆいや、応援してくれているかはわからないけど、西園寺先輩も見てくれているレース……絶対に負けられない!
「では……位置についてー……よーい……」
――パンッ!!
「なっ……!?」
背後から、天条院の呆気に取られた声が聞こえてきた。それもそのはず――俺達はスタートとほぼ同時に、普通の徒競走のような完璧なスタートを切ったからだ。
観客達も驚いたのか、先程までブーイング混じりだったものが、一気に歓声に沸きあがった!
「いっちに、いっちに……」
「いっちにー! いっちにー!」
よし、足並みは揃ってる。ソフィアが緊張している様子もない! この調子でいければ、俺達の勝ち――なのだが。
「ふざけんじゃないわよ! 選ばれし人類のワタクシの前を走るだなんて、百万年早いのよ下民がぁぁぁぁ!!」
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