第35話 二人三脚、陽翔ソフィアチームVS天条院チーム!

「あの声……まさか!」


 俺は足を緩めずに、首を少しだけ後方が見えるように動かすと、天条院のペアがもの凄い勢いで迫ってきていた。


 あいつら、あんなに速く走れたのか!? まずい、あいつらに近づかれたら、何をされるかわかったものじゃない! せっかくスタートダッシュをして、序盤に邪魔されるのを防いだというのに!


「ソフィア、スピードを上げる! 抱き寄せてくれ!」

「おっけ~!」


 俺の指示通り、ソフィアは俺の肩に回す手に更に力を入れた。


 ソフィアの弱点を克服する事は確かにできなかったが、こうしてソフィアに抱き寄せるのを任せる事で、一応の解決策にしている。


 本当は俺が抱き寄せた方が、パワーがある分有利だろうっていうのはわかってるんだが、それでソフィアが機能停止してしまったら、元も子もない。


「くっ……どんだけ速いんだ!」

「下民如きが、ワタクシの道を阻むんじゃないわよ!!」

「うおっ!?」

「きゃあ!!」


 ついに追いついた天条院は、俺の隣に並ぶと、体を強くぶつけてきた。そのせいで俺はソフィアに更にくっつくような形になった。


 別にそれだけなら問題にならないんだが……俺が急にくっついた事でソフィアが一瞬固まってしまった。結果俺達は転んでしまった。


「いってぇ……あの野郎……わざとぶつかってきやがったな!!」

「おーっほっほっほっ!! 学園に紛れ込んだ汚物が這いつくばってるなんて、惨めで最高の景色ですわ~! あなた達もたっぷりご堪能あれ~! おーっほっほっほっほっほっほっほっ!!!!」


 まるで勝ちを確信するように、天条院は今までで一番の高笑いをして去っていく。それとほぼ同時に、観客席からも俺達を馬鹿にするように笑うような声が聞こえてきた。


 くそっ……ゲームではスタートの所で邪魔してくるから、それさえ何とか出来ればなんて思っていた俺が甘かった。


 早く立ち上がらないと……でも、今立っても間に合うのか? もう既に差は開いてるどころか、開き続けている。


 もう……万事休すなんじゃないか? そんな最悪な事が頭をよぎった。


「大丈夫か、ソフィア」

「い、一応……でも、こんなに放されて……もう追いつけないんじゃ……うぅ……」

「二人共、立って!」

「え……?」


 意気消沈していると、俺達から一番近い観客席から声が聞こえた。そこには、西園寺先輩と金剛先輩、そして金剛先輩に持ち上げられて自己アピールをするゆいの姿があった。


 さっきまで違う所にいたのに……いつの間に……?


「諦めないでください! まだ勝負は終わってません!」

「そうよぉ~ん! 男の子なんだから、こんな所で倒れてちゃカッコ悪いわよぉ~!」

「私に勝とうとしている男が、こんな所で諦めるつもりか!」

「ゆい……金剛先輩……西園寺先輩……」


 ……そうだよな。なに弱気になっているんだ俺は。折角練習を重ねてきたのに、あんな卑怯な手の前に屈してたら、それこそバッドエンドみたいなものじゃないか!


「ソフィア、立て!」

「でも……」

「俺達なら勝てる! 沢山練習した俺達が、あんな卑怯な手に頼らないと勝てない程度の相手に負けるわけがない!」

「ハル……ごめん、アタシが馬鹿だったよ! 最後まで諦めずに頑張ろう!」


 弱気になっていたソフィアを立ち直らせてから、俺達は立ち上がって走りだす。不幸中の幸いにも、結んだ布は取れてなかったから、タイムロスはその分減った。


 とはいえ、先頭の天条院を含め、俺達以外の組はかなり前を走っている。ここから追いつくのは、至難の業だろう。


「いくぞ。せーのっ!」

「いっちに! いっちに!」


 掛け声に合わせて、練習通りに走る俺達は、自分でも驚く程どんどんと加速していく、あっという間に一組目に追いついた。


「なっ……!? もう追いついたの!?」

「悪いけど、先に行かせてもらう!」


 驚く相手を尻目に、俺達は少し横にずれて簡単に追い抜かした。


 まずは一組。残りはあと二組……このまま上手くいけば、ゴール直前には追い抜けるはずだ!


「このままいけば大丈夫だ! 落ち着いて練習通りに!」

「うんっ!」


 勢いを一切落とさずに、二組目も簡単に抜かした俺達は、更に加速して先頭の天条院達の背中を追う。


 もう少し……もう少しだ……!


「いっちに……! いっちに……! はぁはぁ……」

「もうちょっとだ! 頑張れソフィア!」


 ソフィアを激励しながら走り、最後のカーブにかかった頃には、天条院に追いつく事が出来た。


 普通に走るよりも、当然のように体力を使うせいで、息は苦しいし足は痛い。でも……ここまで来て、負けたくない!


「ちっ! もう追いついて来るだなんて……! あそこで醜く這いつくばっていればよかったものの!」

「負けて這いつくばるのは、お前だけで十分だ! 道を開けてもらうぞ!」

「行かせませんわ!!」


 先程まで余裕綽々で笑っていた天条院の声から、余裕が消えた。それを象徴するように、天条院達は俺達が前に行けないように進路を塞いだ。


 これでは内側から追い抜くのは不可能――外側から行くしかないんだが、それでは距離的に不利で、追い抜く前にゴールしてしまうかもしれない。それに、恐らく……いや、絶対にまた天条院は直接攻撃で妨害してくるに違いない。


でも、ここで何もしなければ逆転は無理だろう。一か八か……勝負だ!


「ソフィア、外側から抜かすぞ!」

「え!? でもそれだと追い抜く前にゴールされちゃうんじゃ……それにまた……」

「大丈夫、俺を信じろ!」

「……わかった!」


 ソフィアも俺と同じ懸念を持っていたようだが、俺を信じてくれた。この信頼に……絶対に答えて見せる!


「ふふっ……わざわざ惨めになる選択をしてくるなんて、愚かですこと! また地べたに這いつくばりなさい!」

「くっ……!」


 ゴール直前に外側から抜かそうとすると、案の定天条院達は俺に向かって体当たりを仕掛けてきた。


 これでさっきと同じように、俺がソフィアに不用意にくっついてしまい、ソフィアがビックリして固まり、そのまま転ぶ――それが天条院の筋書きだろうな。


 ――だが、その目論見は外れる。


「なっ……? た、倒れない!?」

「来るのがわかってれば、踏ん張る事くらい余裕なんだよ!」


 そう。さっきは邪魔してくると予測はしていたとはいえ、やや不意打ち気味だったから術中にはまったが、今回は来るのを一転読みしたおかげで、何とか踏ん張れた。


 それに、こっちは踏ん張ったとはいえ、ゴールを目掛けて全速力。一方の天条院の方は、体当たりをして妨害をするために、力を分散させてしまった。


 結果、天条院達の速度は落ち――俺達が前に出た。


「ば、馬鹿な……!? ワタクシが……こんな下民に……!?」


 一度転倒したのに、まさかの逆転勝利が繰り広げられた校庭に、驚きと祝福の歓声が響き渡る中――俺達はそのままゴールテープを切った。

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