Ⅲ
何度呼び掛けても応答はなかった。
キーボードを操作しても“アクセス拒否”と表示される。
モニターには二つの爆弾がすでに日本上空へと到達していた。
「最後の瞬間、君たちと共にいられて嬉しいよ……。そこだけは神に感謝だな……」
大道寺の声が聞こえた。後ろを振り返ると、自分の部下に話をしていた。それを聞くと、部下たちは頭を下げる。覚悟ができたようだった。
「あと少しで日本が失くなるのか……私たちもこれで終わりだな……。最後はこの目で見ておくとしよう……」
大道寺は静かに部屋を出て行った。彼の後をついて行くように、次々に人が外へと出て行く。真理子と西条、朋子だけは動けずにいた。
「だって……そんな……まだ何も分かっていないのに……本当のこと、全部知りたかったのに……このまま死ぬなんて……」
「マリちゃん……もう諦めるしか……」
真理子は西条に抱きつき、泣いた。朋子もその様子を黙って見ている。誰もいなくなった部屋で、真理子の泣き声だけが響いていた。
「最期は……みんな一緒にいましょう……外へ……」
朋子はそう言って、二人を外へと促す。
真理子は最後に自分が出来ることをしてから外へ行くといい、一人パソコンの前に座った。自分のパソコンにゼウスのメモリーカードを入れ、ビデオ画面を開く。軽快な電子音が鳴り響き、録画が開始された。
「今日は二〇八〇年八月一〇日、土曜日。あと数分で日本が終わります……。私は……」
真理子は残り少ない時間の中、パソコンの録画機能を使い、何かを記録していた。そしてゼウスにアクセスし、彼のプログラムを書き換えていた。
「よし、間に合った……これであとはゼウスが……」
真理子はそっとパソコンを閉じ、外へと向かった。
どこからか轟音が聞こえる。空を見上げると、この広い大空を覆いつくす黒い物体が圧倒的存在感を放っていた。
「あれが爆弾か……」
誰かが呟いた。そして、その場にいた全員が静かに手を繋ぎ、目を閉じた。真理子の隣には西条と朋子の姿。三人は何を話すでもなく、お互いが顔を見合わせ、静かに頷いた。そして目を閉じた。
大地が唸る。地上が揺れる。体に風圧を感じたその時、世界は白い光に包まれた。明るい光を放った。その光は温かく、静かに差し込む朝の太陽のようだった。爆発した瞬間、霧のような雫が降ってくる。これがウイルスなのだろうか…。体に水分が付く。燃えるように熱く、痛い。けれど目を開ける余裕はない。そしてそれから数分後、二つ目の爆弾が破裂した。爆風はなく、炎もなく、静かな爆発だった。
温かい光に包まれた日本。これを最後に日本という国は消えた。
この後のことは誰にも分からない…。新たな日本が造られたのか、生き残った人間がいたのか、関西だけの人間が死んだのか…何も分からない。
ただ一つ分かること。それは“人間が創った人工知能により、世界は滅ぼされた”と言うことだった。
知りたかった真実、それを彼女は知ることは出来ない。
これからもずっと―――。
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