復讐

ジント

復讐

『今年の報道大賞は……』


年末のこの日、都内某ホテルの大広間で本年度の報道に対する賞が発表される。


『栗田紘一様の火災現場で逃げ遅れた放火魔に決定しました!!』


賞の決定と同時に栗田が撮った動画が大きなスクリーンに映し出された、動画の内容は一軒家で火災発生直後から二階で逃げ遅れた被害者が必死に助けを呼ぶ姿が、そして消防車が到着する前にその声も聞こえなくなる映像が映し出されていた。


『おめでとうございます!栗田様、前に来てください。』


大きな拍手の中、栗田が前に行き賞状と記念品を受け取りコメントを求められた。


『え~、私がこの報道動画を撮れたのは、今年初めからおきた連続放火事件の犯人を取材する為でした、皆様もご存じの通りこの犯人は33件の放火、そして死傷者137名、どれも現場に赤い封筒を、そして中の手紙には警察や消防関係者を挑発する内容が書かれていました、その中でも一番大きな被害が有ったマンション放火で私の婚約者、紗季も帰らぬ人に……』


栗田の頬を一筋の涙が流れ、会場の中も悲しみが漂う。


『その犯人の居場所を突き止め取材に行く途中の高速道路から犯人の家から出火、慌てて車を非常駐車帯に止めスマホで撮影を始めると2階から助けを助けを呼ぶ人が……夢中で撮影したこの映像で賞を取れた事は大変嬉しく思いますが、犯人が逮捕されず動機も分からないまま亡くなってしまった事は本当に残念で仕方が有りません……しかしこれで新たな被害者が出ない事は喜ぶ事であり、これで亡き紗季も浮かばれる事だと……この賞は亡き婚約者に捧げたいと思います。』


会場内は拍手喝采で栗田を称賛し、報道大賞は閉会をした。




ただ、この賞を取った動画をネットのSNSでは『偶然にしては出来過ぎている』と怪しむ者、『録画せずに人命救助を何故しなかったのか?』と避難する者もいたが、この賞を受賞した事により栗田の待遇は一気に変わった、今まで者の中で下っ端の記者だったのが人気記者に。


忙しい毎日を過ごし27歳の時に後輩の斎藤祥子が入社してきた。


洋子とは直ぐに意気投合し半年もしないうちに付き合う様に。


そして付き合って2年で結婚、2人は幸せ一杯な生活を過ごしていた。


結婚から3年後、紘一は久しぶりの休日に宅飲みをしていて、目は座っており、酔いつぶれる一歩手前。


「あなた、朝から飲み過ぎですよ。」


「グビグビ……プッハ~…たまの…休みぐらい……良いじゃ……ないか。」


1時間ほど前からろれつが回っていない状態、普段飲まない紘一だが、飲みだすとブレーキが効かず、誰が止めようとも関係なく潰れてしまうまで飲む、そして潰れて眠ると何時も何かにうなされている。


洋子も飲まさない様に家には酒類を一切置かない様にしているが、会社で嫌な事が有ったのか昨晩紘一が酒類を大量に買い込んで家に帰宅した。


「だからって、いつも飲み始めると潰れる飲むでしょ?急性アルコール中毒にでもなったら…心配してるのよ。」


「……たまには……飲ませて…くれ……グビグビ……フゥ~……最近……小さな賞も……取れず……『あの賞はまぐれか?』……とバカにする奴が……』


「気にしないで、あなたならまた報道大賞に選ばれるニュースを撮れるわ。」


「……安請け合いするんじゃねー!!グビグビ……う!っぷ!!……あれは……俺が……あいつにふく……しゅ……」


ここで紘一が酔いつぶれて意識が飛んだ、だがこの言葉に洋子の顔色が一気に変わる。


「ふく…しゅ?復讐?あの賞を撮った火災は……もしかしてあなたが?……」


あの放火魔の火災で元婚約者の紗季が無くなっていたことを知っていた洋子は、酔いつぶれた紘一をそのままにし、家事もほっぽりだし紘一の仕事部屋を調べ始めた。


いろんな取材の帳簿や関係者の書類、片っ端から調べるがあの賞の事に関しての書類だけは出てこない。


「……残るはあのパソコンね。」


『この部屋のはあまり触らないでくれ、特にパソコンの中には社外秘も含まれるので触らない様に。』


結婚してから専業主婦となった洋子も元報道関係者で、しかも社外秘となると漏れた後が大変だと知っていた、だから特にパソコンだけは触らないようにしていた。


パソコン話立ち上げ、ロック画面がデスクトップに映し出される。


「……まさかとは思うけど…誕生日ってことは無いよね?」


ロック画面に誕生日を打ち込むと、ロックが解除された。


「…呆れた…」


今では当たり前とも言われている基礎【セキュリティロックに誕生日を使わない】を守れていない紘一に洋子は呆れるが今はそれどころではない。


賞を取って2~3年間、陰で噂されていた事『偶然にしては出来過ぎている』を聴いていた洋子、もしかしたら紘一が復讐であの加害者宅を燃やし、録画加害者をワザト死なせた放火犯・・・かもしれない。


パソコン内を調べていくと、当時の資料が見つかった。


そしてだと判断した。


紘一は加害者宅が出火する数日前に接触していて、取材と録音記録が残っていた。


『今年初めから起きている連続放火について取材をしている者ですが。』


『あー!俺が犯人だと言いたいのか?!』


『いえ、犯人について心当たりが有るのではと思いまして。』


『ちぃ!……まぁいい!俺が犯人だよ!!幸せそうに暮らしている奴らが憎くて家を燃やした!特にあのマンション!幸せそうな奴らが多そうだったから入念に調べ、逃げれない様に入り口と非常口も燃やした!キャハハハハ!愉快だったぜ!幸せそうな奴らが悶え苦しんでいく姿は!!さぁ!警察なりなんなり呼べばいい!どうせ俺は癌で余命宣告を受けている身だ!刑が確定するまでに死ぬ!!そしたら書類送検で終わる!!無駄骨だったな兄ちゃん!!アハハハハハハ!!!!』


取材後、連続放火魔の行動、家の間取りなどを調べていた、しかも火元と思われる所に赤い色のペンで丸が書かれていた、全ての資料を見終わった洋子は、徐に仕事部屋に有った全ての資料を紘一が酔いつぶれているリビングを囲う様にぶちまけていく。


【バシャバシャ】


何かを撒く音で目覚めた紘一。


「……洋子?何をしている?」


紘一が見たものは散らかったリビング、取材資料をぶちまけられそこに青いポリタンクから灯油を掛けていた。


「…何をしているんだ洋子!!!」


逃げようと立ち上がる紘一だがふらふらでまともに立てない、2~3歩歩ぽあるいて


「紘一……あなた…報道大賞に自分が放火した現場を録画した物が選ばれたのね。」


「なぜそれを!」


「パスワードに誕生日は不用心だよ、それより元婚約者の紗季さんが被害者になりその復讐で連続放火魔に復讐したかったの?」


「……パソコンの中を見たのか……それもあるが……録音のあいつの言い分を聞いたか?自分は死ぬから幸せそうな人たちを巻き込んだんだぞ!」


「確かに彼がしたことは許せない、だからこそ復讐ではなく警察に突き出すべきだったの。」


「録音の中にあっただろ!奴は余命宣告を受けて自暴自棄にもなっている!もしかしたら俺の取材の後に大きな放火計画を立て実行したかもしれない!!」


「確かにその可能性があったかもしれない……だけど!彼にも家族がいた!たとえその時に離婚をしていても!そしてその娘に取っては唯一の肉親だった!」


「……洋子?……もしかして?」


「そうよ!その娘は私よ!!離婚で名字が変わっていたから気が付かなかったでしょ?私は貴方が賞を取った動画で父の最後を見取ってくれたと思っていた、たとえどんな批判が有ろうとも!それが……父を殺した犯人だなんって!」


洋子は台所からチャッカマンを取り出し火を付けた。


「紘一さん、あなたが元婚約者の紗季の復讐をしたように、私も父の復讐をしても良いわよね?」


「やめ……ヤメロー!!」


その日マンションの一室、栗田紘一宅火災発生、死者2名


こうして連続放火に関係するすべてが終わった、真相を誰も知らないまま。


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