第23話

「これより、緊急会議を開催する」

 サーロンは半円形の集会場の壇上で大声を出した。上級国民ジースがサーロンの周りを囲んでいる。

「皆も知っての通り、我が息子ロゼが罪を犯した。上級国民ジースの一人、ドウマンを殺害したのだ。これよりロゼの処遇を決める」

 

 少し間を置いてサーロンの正面に座っていた坊主頭の老人が手を上げた。

「少し疑問があるのじゃが」

「なんでしょうか?」

「もしロゼ様が罪を犯したと言うのなら、既に捕まっておられるのかな?」

「ロゼ様は我々シルバーエンジェルと現在待機してもらっているところだ」

「もう一つ」

 マハダは鋭い目つきをサーロンに向けた。

「皆にも聞きたいのじゃが」

 そう言ってマハダは立ち上がった。

「魔軍局のサウザー殿が空席じゃが何か知らんかね」

 その痩せた体型としわがれた声からは想像できない程の声が集会場に響いた。

「彼は今とある任務でクリスタル王国の北の方に向かっています。ここは俺が代理で聞くことになりました」

 サウザーの空席の横に座っている仮面の男、ハイゼンがそう言った。

 サーロンはその言葉に疑り深くハイゼンを見た。しかし、直ぐに正面に向き直した。

「ゴホン…まぁいい。ロゼがドウマンを殺したところを実際に見た人間がいる。入って来い」

 

 サーロンがそういうと半円形の集会場の端の扉が開いた。中からクリスタル王国の城下町に住む住人と獣族の女性が入ってきた。

「実際にどういう状況だったんだ?」

「私たちはハルカゼ塔の近くでお花見をしていたのですよ。そしたら、急にドサっという音が聞こえて、何かと思って見に行きました。それがドウマンさんでしたので、びっくりしました」

 ここで住人は降壇した。変わってドウマンと一緒に獣族の移住計画を話し合っていた、キリンの獣族の女性、ミンディが壇上に登り話し始めた。

「最初、事故だと思ったのです。でもよく見ると背中に刃物が刺さっている。明らかに塔の中で殺された後、ここに落とされた。そう思った私は上を見上げました。すると赤い血のついたロゼ様がこちらを見上げているではありませんか。これは確信犯だと思い、役所に通報したのです」

 ここで住民の説明は終わった。

「こういう訳だ。誰がどう見てもロゼがやった」


「でも理由がないわ」

「エレナか……お前は黙っていろ。自分の息子だからそんなことは無いと思いたいのだろう。だが、これは法の問題だ。一人の感情で動く訳にはいけなんだよ」

 エレナはサーロンの言葉に怯んで動けなくなった。



 カーテンが揺れた。獣族の集会場の様子を覗いている。頭についた猫耳が周囲に誰かいないかを音で警戒していた。少し狭いが窓が開いている。今まで二足歩行だった獣族の少女は四足歩行になって構えた。飛び上がる。


 体と上手く細めて窓の外に脱出した。そこは上空数十メートルはある。普通の人間ではとても無事では済まない。だがこの獣族の少女は違った。地面に足がつく瞬間に上手く肘を曲げて衝撃を吸収した。砂が少女の周囲に舞い散る。耳を澄ませば人の足音が聞こえない方向が分かる。少女はそれを嗅ぎ分けて高く生い茂った草むらの中に消えていった。




 サウザー達に助けられた俺は、貰った顔が覆いかぶさるフードを着て一目に付きにくい裏道を歩いていた。クリスタル王国の城下町は相変わらず人が多い。クリスタル城に行き身の潔白を証明する為には、隠れて行動する必要がある。魔術を使えば一瞬で行ける辿り着けるものの、確実にバレる。サーロン国王の元に辿り着くまでにこちら側から居場所がバレるのは勘弁して欲しい。


 ある程度進んだところで、目の前に獣族の集団がこちらに向かって歩いてきた。俺はなんとなくでその集団の総合魔力量トータルパワーを測った。合計100万程度。先ほどのシルバーエンジェルと同程度のレベルの集団。とんでもない魔力量だ。たまたまそれだけの魔力が集まったのか。この集団とやり合えばただじゃすまないだろう。獣族はこちら側が危害を加えない限り交戦して来ないと教育担当者だったピュナから教えて貰っていた。だから何事もなく通り過ぎようとした。


 しかしフードを被っている俺達の前で立ち止まった。流石に通り抜けられない。

「我々は急いでいる。なんの様だ?」

 同じくフードを深々と被って顔を見られない様にしていたサウザーが獣族の集団に問いかけた。

「そこに居るのはロゼ様御一行とお見受けする」

 トラの男が喋りかけてきた。全員で6名居るが全員が姿は動物なのに2足歩行だった。獣族のことは聞いていたが、やはりこっちの世界の独特の生き物なのだろう。

「お前達は?」

「我々はブースター軍団。ドウマンを殺した国王の息子はお前だな。お陰でクリスタル王国の国民の中にはお前と獣族が手を組んで殺したと勘違いする奴が現れた。我々獣族の立場は弱まり移住計画に歯車がかかったのだ」

「そうだったのか。だがそれをいう為にこんなメンツで来たのか?」

 サウザーは聞き返した。

「そうではない。ブースター軍団は移住反対派だ。我々は人間の指示など受けない。だが、ロゼ。お前のせいで我々は近隣住民からも嫌われ移住に追い込まれている。これのわだかまりを解くにはお前をここで殺すしかない」

 

 そういうとブースター軍団の全員が2速歩行から4速歩行になった。俺はブースター軍団達の体から魔力が膨れ上がってくるのを感知魔術で感じ取った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る